情報をスムーズに入手すること以上に「わかりやすく伝えること」は、視覚障害がある私にとって重要なことです。
なぜなら、自分のできること・できないことを他人に伝える場面や、サポートを依頼する場面は健常者に比べて多く、快適に生きるためには欠かせない能力だからです。
ただ、この「わかりやすく伝える」ということは、私にとってとても難しいことで、自分なりに苦労と改善を繰り返してきています。
そんな辛酸を嘗めてきた私ですが、視覚情報をうまく使いこなすことで、コミュニケーションが円滑になったことを実感できたので、その工夫した内容を紹介します。
この記事は、視覚障害者や、わかりやすく伝えることに苦労している方向けの内容です。
伝わらない原因は視覚情報を使いこなし切れていないこと
見える世界でのコミュニケーション
見える世界でのコミュニケーションでは、伝えたいことを図形で説明していたり、言葉の説明に加えて、視線を相手に合わせたり、相手の表情を伺いながら話を進めたり、ジェスチャーを用いたりしながら会話が進められています。
つまり、言語コミュニケーションよりも非言語コミュニケーションに重きが置かれる傾向があります。
みなさんは、「メラビアンの法則」というものを聞いたことがありますか。
とある実験結果から、人の行動が他人にどのように影響を及ぼすかの割合を示したもので、
- 話の内容などの言語情報:7%
- 口調や話の早さなどの聴覚情報:38%
- 見た目などの視覚情報:55%
という結果が導かれたとのことです。
これを自分なりにかみ砕いて説明すると、例えば、伝える人が笑顔で「No」と言っている場面を想像してください。
受け手はその人の笑顔や口調に着目してしまい、あたかも「Yes」と答えているように誤認してしまうそうなんです。
それは、笑顔(視覚情報55%)+穏やかな口調(聴覚情報38%)=93%に圧倒されてしまうためなんです。
つまり、100%-93%=話の内容7%が薄れてしまうという話のようです。
見えない人のコミュニケーション=私の場合
他方、そういった55%の視覚情報を使いこなすことのできなかった視覚障害がある私は、7%の言語コミュニケーションと、38%の聴覚情報が中心で生活してきました。
そして、言葉が重要な要素と考えていたため、できる限り正しい言葉を使って、誤解が生じないように頑張ってきました。
ただ、そうやって伝えようと頑張っていても、しばしばミスコミュニケーションが生じていて、その度に「なんでだろう」と悩んでいました。
よくよく自分の行動を振り返って考えたり、周囲の人に聞いてみたりしてわかったことは次の2点でした。
- 55%の視覚情報をうまく使えていなかったから
- 聞き手の特徴をきちんと分析できていなかったから
見える人に伝えるときの工夫点
視覚障害がある見えない人同士の会話では、言葉のチョイスや口調さえ誤らなければ、すれ違いはさほど生じませんでした。
一方、見える人に伝える際には、しばしばミスコミュニケーションが課題でした。
自分なりに分析した結果、視覚情報を使いこなすことができていないことに一原因がありました。
では、具体的にどのようにその視覚情報を使いこなせばいいのかというところですが、それは後述するとして、ここでは見えない人や見えにくい人などの視覚障害者であっても、視覚情報を使いこなすことができるんだという重要なことを理解していただきたいなと思っています。
時々、見えないからといって、視覚情報を使えないんじゃないかと誤認してしまう人がいるようですが、それは誤りです。
確かに難しいこともありますが、慣れれば視覚情報を使いこなすことで、コミュニケーションがよりスムーズに行えるようになります。
全盲の私が実践している場面別工夫内容
ここからは、場面別での「わかりやすく伝える方法」を紹介したいと思います。
これはあくまで私の主観であり、経験からのものです。
読者の方には、これをヒントにさらに良いコミュニケーションの方法を探っていただければなと思います。
その1:町中で「何かお手伝いしましょうか」と話しかけられた場面での工夫
初対面の方に対して、自分がしてほしいサポート内容について、短時間で言葉で説明するのはとても大変です。
そして、大きな音が周囲でしていたり、多くの人が行き交う場所だったりでは、伝わらないことがしばしばです。
特に、視覚障害者の誘導をしたことがない方に対して、自分がしてほしいサポートを短時間で伝えることはさらに困難です。
そこで私は、「よろしければ、右肘を掴ませていただけますか?」と言葉で説明しながら、左手を軽く肩の高さまで挙げて、肘を掴む手の形をして見せることを実践しています。
すると、視覚情報は右脳で直感的に処理するせいか、正しく伝わることが多くなりました。
こうしてスムーズに自分がお願いしたいサポートを伝えられ、直感的に理解してもらえると、相手も自分も快適にその場を過ごすことができるので、とてもオススメです。
なお、視覚障害者へのサポート方法については、こちらの記事でまとめています!
その2:打ち合わせで意見を伝える場面での工夫
打ち合わせの場面では、自分が言いたいことを伝えなければならない場面が多々でてきます。
これまでの私は言葉にだけ着目して一生懸命話していたのですが、最近は自分が話す姿勢や、相手の目線や、表情に配慮するようになりました。
この理由は、多くの人が、話し手の話を全て聞くことよりも、意見やアイデアを考えていたり、話し手の視覚情報に着目したりしている傾向があるなと気が付いたためです。
特に、ビジネスでの打ち合わせの場面では、他人の長い話は飽きてしまいますし、時間がないため交渉を早々に勧めたい場面が多くありますので、最後まで人の話だけを聞いている場面は稀です。
もちろん、他人の話だけを一生懸命聞いている方もいらっしゃるとは思うのですが、私の経験上は聞くことよりも、考えることに徹している人が多い印象を持っています。
また、人の話をそもそも聞いていない人もいますね!
出席者にわかりやすく伝えるためには、できるだけ自分の話を短く端的にしています。
そして、表情をうかがい知ることができない代わりとして、こちらから出席者の理解度を確かめるような質問をしています。
また、相手と目線を合わせることはできませんが、不自然にならない程度に人の方を向きながら話をするように心がけています。
そうすることで、自分が伝えたいことがミスが少なく伝わるようになったように感じています。
さらに、話がそれることが少なくなったように思います。
その3:資料を使って検討している重要な企画やプロジェクトを説明する場面での工夫
企画やプロジェクトを伝える場面や、研修で難しいことを伝える場面では、理解と共感を得たいがために、念入りに準備した資料で0からきちんと順序だてて話をしてしまう傾向があります。
かつて私もそうでした。
ただ、長文を読むことと同じぐらい、他人の話を長時間きくことは辛いものです。
特に、分量の多い資料や、単調なスライドが出てくるプレゼンテーションや、難しい用語が飛び交う説明だとその辛さは増幅します。
そんな時に私がやっている工夫は、身振りを加えて話すことです。
もしかしたら、変な動きをする人だなと思われているかもしれませんが、話に飽きられてしまい、全く興味を持ってもらわないよりもましだと考えています。
それと同時に、説明するスライドの枚数を減らし、重要な部分だけを図式化しています。
これは、自分でパワーポイントを使って図式化したり、画を描いたりすることに物理的な限界があるため、誰かに手伝ってもらう文量を減らしたいという理由からです。
また、長々と話すことや、多くの資料やスライドを見せるよりも、本当に重要なことだけに絞り端的に説明することが大切だと実感しています。
直感的に伝えた方がうまくいくケースが多い経験もしてきました。
ところで、人は右脳で直感的に理解し、後から左脳で論理的な補いをするそうです。
このため、見える人にはまずは直感的に理解できるイメージで伝えることが大切だと思っています。
細かなところは、後程落ち着いて自分たちで見てもらえればいいのかなと感じています。
なお、イメージは何も絵や図式だけで伝える必要はなく、言葉でも端的に伝えられるケースもあります。
例えば、○○のようなものと一緒ですと話すだけで、聞き手はその○○を頭でイメージして直感で理解しようとするようです。
見えない人に対する説明でも効果的ですが、時間が限られており、複雑なプレゼン資料が作れないときで、見える人に説明する場面ではより効果的です。
まとめ
今回は、わかりやすく伝える方法について、視覚障害がある私視点で工夫を伝えてみました。
聞き手によって伝え方は様々ですので、この内容が役に立たない場面もあるかもしれません。
なお、直感的に視覚情報で伝えることの大切さを説明してきましたが、見た目重視でその他の部分を軽視しても良いと書いているわけではありません。
適切な言葉を選ぶことも大切です。
その言葉と、視覚情報や聴覚情報をうまく組み合わせることで、より効果的になるのではないかと感じています。
見えなくても視覚情報をうまく使える方法はたくさんあります。
そんなことをこの記事を通じて伝えられることができたなら嬉しいです。