「駅から遠い店へ行きたい。でも私は運転できない。同行援護のガイドさんの車に乗せてもらえたら……」
視覚障害のある人にとって、これは単なる便利・不便の話ではありません。
どこで買い物をするのか。子どもをどこへ連れて行くのか。休日をどう過ごすのか。
生活の選択肢そのものに関わる問題です。
2026年9月24日、厚生労働省の検討チームに新しい資料が示されました。
この問題を正面から扱う資料です。
テーマは「サービス提供に伴い必要不可欠な自動車による移動に係る評価」です。
- 先に結論
- この記事のポイント
- まず、同行援護ってどんなサービス?
- これまでの整理:車は禁止ではない。でも、簡単でもない
- 公共交通がない地域だけの問題ではない
- 地方で暮らす人が、外へ出るきっかけに
- ニトリに行きたい。それがなぜ難しいのか
- コストコでまとめ買いしたい
- 介護タクシーとして対応する事業所の負担
- 親として、子どもを遊びに連れて行きたい
- ブラインドゴルフにも車があれば
- 山、温泉、ちょっと不便な宿へ
- 2026年9月、国は何を検討し始めたのか
- もし実現したら、ある土曜日はこう変わる
- 制度化で詰めるべき論点
- 同行援護を変えるのは、私たちの利用でもある
- いま利用したい人が確認すること
- まとめ:With Blindも今後の議論を注視します
- 参考資料
先に結論
同行援護での車利用が、一律に禁止されているわけではありません。
ただし、ガイドヘルパーが運転している時間は、原則として同行援護の報酬を算定できません。
道路運送法、保険、事故時の責任、自治体や事業所の運用も確認が必要です。
厚労省は今、サービス提供に必要な車移動を評価することを検討しています。まだ決定ではありません。
この記事のポイント
- 車での移動が必要なのは、公共交通がない地域だけではありません。
- 大型店での買い物、子育て、レジャー、ブラインドゴルフでも車が大きな意味を持ちます。
- 事故や保険を心配し、対応に二の足を踏む事業所があります。
- 介護タクシーを運営する事業所にも、低い報酬と高い運営負担があります。
- 制度を育てるには、視覚障害者が必要なときに同行援護を利用することも大切です。
まず、同行援護ってどんなサービス?
同行援護は、ただ目的地まで連れて行ってもらうサービスですか?
いいえ。外出中に必要な視覚情報を言葉で伝えたり、代読・代筆をしたり、安全に移動できるよう援護したりします。必要に応じて、食事や排せつなど外出時の援助も行います。
厚労省の資料は、同行援護の支援範囲を三つに整理しています。
- 移動に必要な情報の提供
- 移動の援護、排せつ、食事などの介護
- その他、外出時に必要な援助
同行援護は、人の「行きたい」「選びたい」「参加したい」を支える制度です。
これまでの整理:車は禁止ではない。でも、簡単でもない
ガイドさんの車に乗るのは禁止なんですか?
「同行援護だから車は絶対禁止」と国が一律に決めているわけではありません。ただ、運転している時間は同行援護の報酬にできません。さらに、車の所有者、運送の対価、保険の補償範囲、事故時の責任、自治体の取扱いなどを整理しなければ、事業所として簡単に認められないのです。
ここは二つの話を分けると理解しやすくなります。
- 障害福祉サービスの報酬:ヘルパーは運転中、安全運転に専念しなければならず、その時間に身体介護や情報提供を行うことはできないため、運転時間は原則として報酬算定の対象外です。
- 車で人を運ぶ法制度と安全:利用者から運送の対価を受け取るかなどによって、道路運送法上の許可・登録の要否が変わります。運送自体に対する報酬がなく、利用者から運送の対価を受け取らない場合は許可・登録を要しない整理がありますが、個別の実態で判断されます。
つまり「乗せてもらえる可能性はある。でも事業所は運転時間分の収入がなく、事故対応まで背負う」ということ?
そこが核心です。
片道40分なら、往復で80分です。買い物中に2時間支援しても、移動の80分は無報酬になり得ます。
車両費、燃料費、駐車場代、保険料は必要です。安全管理と職員の労働時間もなくなりません。
対応するほど経営が苦しくなる仕組みでは、利用希望があっても受けにくいのです。
事故をリスクとして捉え、二の足を踏む事業所もある
「事故が起きたら、誰がどこまで責任を負うのか」。この不安は、事業所にとって大きな問題です。
対人賠償や人身傷害の補償内容は、保険契約によって異なります。業務で車を使う場合の条件も確認が必要です。
同乗者のけがだけではありません。休業損害や白杖などの携行品も論点になります。事業者賠償との関係も整理しなければなりません。
万一の事故を現実的なリスクとして捉え、車での同行援護に二の足を踏んでいる事業所もあると思います。
これは、事業所の理解が足りないからではありません。利用者、ガイド、事業所の誰も補償の谷間に落とさない責任があるからです。
公共交通がない地域だけの問題ではない
今回の資料では、公共交通機関が少ない地域が例として挙げられています。
しかし、車移動の必要性は、交通空白地だけに限りません。
電車やバスが走っていても、目的地が駅から遠いことがあります。大型商品や大量の荷物を持って帰ることもあります。
こうした買い物でも、サービス提供に伴う車移動が評価されれば、とてもありがたいと私たちは考えます。
地方で暮らす人が、外へ出るきっかけに
近所のスーパーへ行くだけでも、バスの時刻に一日を合わせなければなりません。
冬は雪道です。雨や強風の日も、停留所まで歩かなければなりませんね。
地方で暮らす視覚障害者にとって、外出は目的地に着いてから始まるものではありません。
自宅から停留所までの雪道を歩く。少ない便を長時間待つ。直線なら車で20分の店へ、電車とバスを乗り継いで1時間以上かける。
帰りの最終便が早いため、店内でゆっくり商品を選べないこともあります。悪天候の日には、外出そのものを諦める人もいるでしょう。
通院や手続きなど、どうしても必要な外出が優先されます。その結果、買い物、趣味、人との交流といった外出は後回しになりがちです。
サービス提供に伴う車移動が適切に評価されれば、状況は変わる可能性があります。
事業所は、ガイドの運転時間をすべて持ち出しにせずに済みます。保険や安全管理などの条件を整えたうえで、ガイドの車による移動を前向きに検討しやすくなるのではないでしょうか。
利用者にとっても、「今日は雪だからやめておこう」ではなく、「安全な方法を相談して出かけよう」と考えやすくなります。
ニトリに行きたい。それがなぜ難しいのか

新しい枕と収納棚を、実物を触って選びたいんです。近所のニトリは駅から遠く、バスも1時間に1本です。
私は休日に車で行って、合わなければ別の店も回るよ。
それが、私には大旅行なんです。
駅まで歩き、電車を乗り継ぎます。さらにバスを待ち、降りた後も広い道路を歩きます。
店に着くころには、かなりの時間を使っています。
店内では、棚や商品の大きさ、素材、値札を説明してもらいます。会計後は、かさばる荷物を持って公共交通で帰ります。
大型家具は配送できても、「まず見に行く」ことのハードルが高いのです。
車が使えれば、自宅から店まで移動しやすくなります。
店内でこそ、同行援護の専門性を生かせます。
商品の色、形、価格、展示レイアウトを説明してもらえます。実際に触れて比較することもできます。
これは、ぜいたくの話ではありません。
見える人が日常的に行う「比較して選ぶ」という行動を、視覚障害者にも広げる話です。
コストコでまとめ買いしたい
コストコで水や洗剤、食品をまとめ買いしたい。でも駅から遠い店舗が多く、大容量商品を公共交通で持ち帰るのは現実的ではありません。
店内は広く、人もカートも多いので、商品の場所、容量、価格、賞味期限を伝えながら安全に歩く同行援護が役立ちます。でも帰りの荷物まで考えると、車がなければ依頼自体が難しくなりますね。
制度上の評価が整えば、「店内では支援できるが、そこまで行けない」というねじれを小さくできます。まとめ買いによる家計の節約、災害備蓄、子育て家庭の負担軽減にもつながります。
介護タクシーとして対応する事業所の負担
介護タクシーなどの仕組みを整え、車による支援を行っている事業所もあります。
しかし、車両の購入や維持には費用がかかります。燃料費、保険料、点検費、資格や許可に関する負担もあります。
運転者の確保も簡単ではありません。運転中の時間を含め、十分な収入を確保しにくいという問題もあります。
報酬が少ないままでは、事業所運営はとても厳しいはずです。
利用者の移動を支える事業を、善意や持ち出しだけに頼らせてはいけません。
親として、子どもを遊びに連れて行きたい

子どもが「川遊びに行きたい」「大きな公園で遊びたい」と言います。でも駅から遠く、路線バスもほとんどありません。私の障害のために、子どもの体験を狭めているようで苦しくなります。
親子のお出かけでは、親の移動を支えつつ、現地の状況を具体的に伝えます。駐車場から遊び場までの路面、川岸との距離、遊具の位置、子どもの動きなど、安全のための情報が重要です。
車移動が現実的になれば、テーマパークや大型公園も候補になります。
牧場、果物狩り、海水浴場、川辺のバーベキュー場にも行きやすくなります。
ただし、同行援護が子どもの見守りや水難救助を代替するわけではありません。
目的地固有のリスクを確認しましょう。必要なら、家族や別の支援者も含めて安全計画を立てます。
With Blindが大切にしたいこと
親に視覚障害があることを理由に、子どもたちの可能性や遊びの機会が減ることは、あってはならないとWith Blindは考えています。
「自分の障害のために、子どもを連れて行けない」。そんな重荷を、視覚障害のある親だけに背負わせてはなりません。
同行援護などの福祉サービスを利用する。家族や地域の人と協力する。移動支援や新しいサービスを組み合わせる。
さまざまな支援の形を活用しながら、親として子どもにしてあげたいことを、最大限できる社会であってほしいと思います。
そのためにWith Blindとして何ができるのか。私たちは、いつも考え続けています。
ブラインドゴルフにも車があれば
ブラインドゴルフをやってみたい。でも、ゴルフ場へ行くまでが大変です。
ゴルフ場は、駅から離れた場所に多いですね。クラブやシューズなどの道具もあります。
ブラインドゴルフは、視覚障害者がガイドと協力して楽しむスポーツです。
ところが、ゴルフ場は公共交通で行きにくい場所にあることが少なくありません。早朝のスタートでは、利用できるバスや送迎がない場合もあります。
ゴルフバッグを持って電車やバスを乗り継ぐ負担も大きなものです。
ガイドが安全な体制の下で車を運転できれば、自宅からゴルフ場まで移動しやすくなります。道具も一緒に運べます。
現地では、ボールの位置、方向、距離、地形などを伝える支援に集中できます。
車移動の評価は、買い物だけの問題ではありません。スポーツや社会参加の可能性にもつながります。
山、温泉、ちょっと不便な宿へ
日本には、公共交通ではたどり着きにくいけれど、素晴らしい宿や温泉がたくさんあります。登山口、キャンプ場、農家民宿、山あいの美術館、地域の祭りも同じです。
送迎バスが1日1便しかない宿は、乗り遅れが怖くて候補から外していました。
車移動が制度上評価され、対応できる事業所が増えれば、現地での段差や館内表示、食事の説明まで一連の支援を組み立てやすくなります。ただし、宿泊を伴う支援の算定や夜間の扱い、自治体の支給決定は別途確認が必要です。
2026年9月、国は何を検討し始めたのか
厚労省が2026年9月24日の第63回障害福祉報酬改定検討チームに示した資料は、現在の課題を次のように整理しています。
- ヘルパーが利用者を乗せて運転する時間は、現行では報酬算定できない。
- 特に公共交通機関が少ない地域では、買い物支援などのために車移動が必要なケースがある。
- 無報酬の運転時間が、同行援護事業所の安定運営を難しくしている。
- 運転時間そのものを直接、同行援護の報酬にすることはできない一方、サービス提供に伴う必要不可欠な自動車移動を「評価」することを検討してはどうか。
「評価する」とは、運転時間がそのまま同行援護になるという意味ですか?
資料は、そこまで具体化していません。
「運転時間を直接的に報酬算定の対象とすることはできない」と明記しています。
そのうえで、自動車移動をどう評価するかを検討する段階です。
加算なのか。一定額なのか。地域、距離、時間の要件が付くのか。
対象サービスや車両、保険の条件もまだ分かりません。詳細はこれからです。
もし実現したら、ある土曜日はこう変わる
これまで
朝9時にガイドと合流。徒歩、電車、バスを乗り継ぎ、11時前に家具店へ。帰りのバス時刻が気になり、比較は駆け足。大きな収納用品を諦め、午後2時半に帰宅。車対応は断られた。
制度上の評価が整った未来
朝10時に、安全管理・保険・運送ルールを整えた事業所の車で出発。10時40分に家具店へ。枕を触り比べ、収納棚の寸法と部屋に置いたイメージをガイドから聞く。昼食後、近くの大型スーパーで重い日用品も購入。午後3時に帰宅。ガイドの移動時間にも事業運営を支える評価が付き、利用者の希望と事業所の持続可能性を両立しやすくなる。
この変化の本質は、単なる時間短縮ではありません。「行ける場所」「選べる商品」「親子で共有できる体験」「住む地域」の選択肢が増えることです。
制度化で詰めるべき論点
- 対象地域:「公共交通が少ない地域」をどう定義するか。都市部でも郊外型店舗やレジャー施設は駅から遠い。
- 対象となる外出:買い物だけでなく、余暇、旅行、親子の外出も含まれるのか。
- 評価方法:距離、時間、1回当たり、加算方式など、事業所が赤字にならない設計か。
- 利用者負担:ガソリン代、高速代、駐車場代、車両費を誰がどう負担するのか。
- 安全管理:運転者の適性・研修、休憩、車両点検、冬道や長距離運転の基準。
- 保険と事故対応:十分な補償、事故時の連絡・救護・記録、事業者と運転者の責任分担。
- 道路運送法との整合:無償運送、実費、福祉有償運送、タクシー事業との境界を分かりやすく示すこと。
- 利用者の選択:車を望まない人に車利用を迫らず、公共交通を使う同行援護も守ること。
同行援護を変えるのは、私たちの利用でもある
同行援護の利用者数は、大きく伸びているとは言いにくい状況です。
制度をより良くするには、行政や事業所の努力だけでは足りません。
私たち視覚障害者が、制度に基づいて同行援護を利用することも大切です。
買い物に行きたい。スポーツを楽しみたい。子どもと出かけたい。旅行をしたい。
必要なときに、必要な支援を申し込む。その利用実績と声が、地域の需要を見える形にします。
視覚障害のある利用者へ
「この外出は頼んでよいのだろうか」と、最初から諦めないでください。
まずは自治体や相談支援専門員、同行援護事業所へ相談してみましょう。
一人ひとりの利用が、次の制度改善につながります。
同行援護事業所の皆さまへ
この記事を、利用者への説明や事業所内の検討にご活用ください。
車利用を始める場合は、法令、保険、安全管理、費用負担を丁寧に確認する必要があります。
現場で困っていることも、ぜひ行政や関係団体へ伝えてください。
いま利用したい人が確認すること
- 市区町村の障害福祉窓口または相談支援専門員に、外出目的と交通事情を具体的に伝える。
- 同行援護事業所に、車利用の方針、使用車両、運転者、保険、事故時対応を確認する。
- 運送に関して利用者が支払う費用と、その法的な位置づけを確認する。
- 高速代・駐車場代・入場料・ガイドの交通費など、自己負担になる費用を書面で確認する。
- 長距離、宿泊、水辺、山間部では、サービス提供範囲と安全計画を個別に相談する。
まとめ:With Blindも今後の議論を注視します
私たちが求めているのは、特別扱いではありません。行きたい店で品物を比べ、子どもと遊び、家族で温泉へ行く。当たり前の選択肢です。
そして、支える側が善意や持ち出しだけに頼らず、専門職として安全に仕事を続けられる仕組みが必要です。
2026年9月の厚労省資料は、現場が長く抱えてきた矛盾を国の検討課題として示しました。
車が必要なのに、運転時間は報酬にならない。その問題を少しでも良い方向へ進める議論だと思います。
ただし、現段階はあくまで検討の方向性です。
地方だけでなく、都市郊外の実態も反映してほしいと思います。買い物だけでなく、余暇、子育て、スポーツのニーズも対象にしてほしいところです。
事故時に誰も取り残さない保険と安全基準も欠かせません。事業所が安定して運営できる報酬設計も必要です。
With Blindとしても、今後の議論を注視していきたいと考えています。
視覚障害のある利用者にも、同行援護をもっと利用していただきたいと思います。
そして同行援護事業所の皆さまにも、この記事を制度の説明や今後の検討に役立てていただければ幸いです。
※この記事は2026年9月26日時点の公表資料に基づきます。制度の利用可否や費用は自治体・事業所・個別事情により異なります。契約前に必ず関係機関へご確認ください。


