この記事で分かること
視覚障害のある人を採用し、力を発揮してもらうために、企業が採用前・選考時・入社後に確認したいポイントを当事者の視点で整理します。合理的配慮、就労支援機器、ジョブコーチ、スキルアップ支援まで、実務で使える公的窓口も紹介します。
視覚障害者の採用で大切なのは、見え方を決めつけず本人と確認すること
「視覚障害のある人に、どの仕事を任せられるのだろう」「特別な設備に大きな費用がかかるのでは」と不安に感じる採用担当者もいると思います。
私自身、視覚障害のある当事者として就職活動と仕事を経験してきました。そこで感じるのは、障害名だけでは、できることも必要な配慮も分からないということです。
全盲か弱視かだけでなく、見える範囲、まぶしさ、色の見分け方、見え方が安定する時間帯、スクリーンリーダーや拡大機能の習熟度も一人ひとり異なります。まず本人に「どの方法なら仕事がしやすいですか」と尋ねることが、採用と定着の出発点です。
「何ができないか」を推測するより、「どんな環境なら力を発揮できるか」を本人と一緒に確認する。
採用前から入社後まで|企業が確認したい7つのポイント
1.求人票と応募方法をスクリーンリーダーで利用できるようにする
採用サイトや応募フォームが画像だけで構成されていたり、キーボードで操作できなかったりすると、応募する前に選考から締め出してしまいます。求人情報はテキストでも提供し、入力欄には分かりやすいラベルを付け、マウスを使わなくても操作できるか確認します。
2.面接では必要な配慮を具体的に尋ねる
面接会場までの案内、オンライン面接システム、筆記試験、資料の形式など、選考方法そのものに障壁がないか確認します。「何か配慮は必要ですか」だけで終わらず、「資料はWord・テキスト・拡大文字のどれが使いやすいですか」のように具体的に尋ねると、双方が話しやすくなります。
3.障害名ではなく、仕事内容との相性を確認する
「視覚障害者向けの仕事」を先に決める必要はありません。業務を、情報の入手、判断、入力、連絡、移動といった作業に分け、どこに障壁があるかを確認します。方法を変えればできる仕事と、本質的に視覚確認が必要な仕事を整理すると、任せられる職務が見えやすくなります。
4.社内システムと資料のアクセシビリティを試す
勤怠、経費精算、チャット、社内ポータル、研修システムが、キーボードとスクリーンリーダーで使えるかを確認します。PDFしかない資料は、見出しを設定したWordやテキストデータも用意すると読みやすくなります。表や画像には、内容が伝わる説明を添えます。
5.入社初日に移動と安全のオリエンテーションを行う
座席、トイレ、休憩場所、避難経路、複合機などを一緒に確認します。通路に一時的に荷物を置かない、席の配置を変えたら伝えるといった小さなルールが安全につながります。本人の同意なく腕や白杖を引っ張らず、必要な誘導方法を最初に教えてもらいましょう。
6.相談相手と定期面談を決め、配慮を更新する
必要な配慮は、担当業務やシステムの変更、見え方の変化によって変わります。上司だけで抱えず、人事、情報システム、現場の担当者を含む相談経路を決めます。入社直後、1か月後、3か月後などに短い面談を設けると、小さな困りごとの段階で対応できます。
7.配慮だけでなく、育成・評価・昇進の機会も設計する
採用できても、仕事を任せず補助的な業務だけが続けば、本人の成長にも企業の成果にもつながりません。目標、評価基準、研修への参加方法を明確にし、必要な配慮を行ったうえで、経験を積める仕事を段階的に広げます。
合理的配慮は「特別扱い」ではなく、能力を発揮できる条件を整えること
障害者雇用促進法では、募集・採用を含む雇用の場面で障害を理由とする差別を禁止し、事業主に合理的配慮の提供を求めています。合理的配慮は一律の対応ではなく、本人との対話を通じて、業務への支障を取り除く方法を検討するものです。
| 場面 | 困りごとの例 | 配慮の例 |
|---|---|---|
| 応募・面接 | フォームや試験問題を読めない | 操作できるフォーム、テキストデータ、時間延長を検討する |
| パソコン作業 | 画面の文字やボタンを確認できない | スクリーンリーダー、拡大機能、キーボード操作を利用できるようにする |
| 紙の資料 | 小さい文字や画像中心の資料を読めない | 電子データ、拡大文字、OCR、点字など本人に合う形式を用意する |
| 移動・安全 | レイアウト変更や障害物に気づきにくい | 変更を言葉で伝え、通路を確保し、避難方法を事前に確認する |
| 会議・研修 | 画面共有だけでは内容が分からない | 資料を事前送付し、図表や指示語を言葉でも説明する |
2026年7月から民間企業の法定雇用率は2.7%
厚生労働省によると、2026年7月1日から民間企業の法定雇用率は2.7%です。ただし、人数を満たすことを採用のゴールにしてはいけません。本人が能力と適性を生かして働き続けられる職場をつくることが、企業にも働く人にも大切です。
制度や助成金は改定されることがあります。
申請条件、対象者、期限、支給額は、必ず厚生労働省・JEED・ハローワークなどの最新案内で確認してください。
スクリーンリーダーや拡大読書器は、導入前に本人と試す
視覚障害者が使う代表的な就労支援機器には、画面を音声で読み上げるスクリーンリーダー、文字を拡大するソフト、拡大読書器、印刷物を文字データにするOCR、点字ディスプレイなどがあります。
重要なのは、製品名だけで選ばないことです。本人が普段使っている環境と、社内システムとの相性を実際の業務で確認します。JEEDの「就労支援機器貸出・相談窓口」では、事業主向けに機器の相談や無料貸出を行っています。購入前の検証に活用できます。
就労支援機器を相談したい企業へ
JEED「就労支援機器貸出・相談窓口」
障害の状況、職務、就労環境に合わせて、機器の紹介や活用方法の相談ができます。
ジョブコーチは、本人と企業の両方を職場で支援する
職場適応援助者、通称「ジョブコーチ」は、本人だけを訓練する人ではありません。職場を訪問し、本人への作業支援に加えて、事業主や上司、同僚へ、仕事の教え方、職務の組み立て、コミュニケーション、環境改善について助言します。
- 採用直後に、仕事の手順や支援方法を整えたい
- 担当業務や社内システムが変わり、対応方法を見直したい
- 中途で視覚障害となった社員の職場復帰を支えたい
- 本人と職場の認識のずれを、第三者を交えて整理したい
JEEDのジョブコーチ支援は、求職者と在職者が対象です。標準的な支援期間は2~4か月で、個別には1~8か月の範囲で設定されます。支援終了後も職場内で適切な支援を続けられる状態を目指します。
ジョブコーチの役割は、障害者を職場へ一方的に合わせることではありません。
本人と企業の双方を支援し、仕事の方法と職場環境を一緒に整えます。
JEED「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援」から、全国の地域障害者職業センターを確認できます。
オンラインスクールWith Blindでも、仕事に役立つスキルを学べます
環境を整えることと同時に、本人が新しい技術を学び、仕事の選択肢を広げられる機会も大切です。
オンラインスクールWith Blindでは、視覚障害のある子どもから大人までを対象に、見え方や学び方に合わせた講座を提供しています。仕事に役立つ内容として、パソコン、スマートフォン、生成AI、文章作成、ビジネススキルなどを学べます。点字、拡大文字、音声読み上げ、テキストデータなど、受講者に合う方法を大切にしています。
企業の合理的配慮は、本人に努力を任せるためのものではありません。一方で、学びたい本人が自分に合う環境でスキルアップできれば、担当できる仕事やキャリアの可能性を広げられます。企業の研修や自己啓発支援の選択肢としても、ぜひご検討ください。
視覚障害に合った方法で、仕事のスキルを学ぶ
オンラインスクールWith Blind「初めての方へ」
社会人の受講や、仕事に役立つスキルアップ講座について紹介しています。
採用担当者向けチェックリスト|まず10項目を確認
- 求人情報と応募フォームを音声読み上げで利用できる
- 選考で必要な配慮を本人へ具体的に確認した
- 職務を作業単位に分け、方法を変えればできる仕事を検討した
- 社内システムをキーボードと支援技術で試した
- 資料をアクセシブルな電子データで渡せる
- 入社初日に移動・安全・避難方法を確認する
- 職場で相談できる担当者と定期面談を設定した
- 就労支援機器の相談・貸出制度を確認した
- 必要に応じてジョブコーチや地域障害者職業センターへ相談する
- 配慮だけでなく、研修・評価・昇進の機会も用意する
まとめ|採用はゴールではなく、対話しながら働き方を育てるスタート
視覚障害者の雇用に、すべての職場へ当てはまる一つの正解はありません。しかし、本人へ確認し、仕事と環境を具体的に見直し、必要な外部支援を使うことで、採用前の不安は実行できる課題に変えられます。
できないと決めつけず、配慮だけで成長の機会を止めず、本人と企業が一緒に働き方をつくる。そんな採用と雇用が広がることを、当事者の一人として願っています。
参考・相談先
- 厚生労働省「障害者雇用対策」(2026年8月25日閲覧)
- JEED「職場適応援助者(ジョブコーチ)による支援」(2026年8月25日閲覧)
- JEED「就労支援機器貸出・相談窓口」(2026年8月25日閲覧)
- JEED「障害者雇用マニュアル 視覚障害者と働く」(2026年8月25日閲覧)
- オンラインスクールWith Blind「初めての方へ」(2026年8月25日閲覧)
※本記事は一般的な情報をまとめたものです。制度の適用や具体的な合理的配慮は、本人との対話および関係機関への確認を踏まえて個別にご検討ください。


