法律を学び、海外で国際法を研究し、現在は企業の法務部門でコンプライアンス業務に携わる山田翔登さん。先天性緑内障により1歳半で全盲となった山田さんは、進路選択、海外留学、就職後の葛藤を経験しながら、自分らしいキャリアを一歩ずつ築いてきました。
この記事では、山田さんが法律の道を志した理由、チューリッヒ大学大学院での学び、法務職として働く中での工夫、そしてAIやWith Blindでの学びを通じて見えてきた「これからの働き方」について伺います。
この記事でわかること
- 全盲の山田翔登さんが法律の道を志した理由
- チューリッヒ大学大学院での海外留学経験
- 視覚障害のある法務職の仕事内容と工夫
- 社会人1年目に感じた葛藤と乗り越え方
- 「仕事を待つ」から「仕事をつくる」へ変わったきっかけ
- AI活用がキャリア形成に与えた影響
- With Blindで得た学びとつながり
山田翔登さん プロフィール
- 先天性緑内障により1歳半で全盲
- 同志社大学大学院で法律を専攻
- チューリッヒ大学大学院で国際法を研究
- 修士論文では環境犯罪をテーマに研究
- 現在はエネルギー関連企業の法務部門に勤務
- コンプライアンスや人権デューデリジェンスに従事
- With BlindでAI活用やキャリア形成について学習中
見え方
先天性緑内障により1歳半で全盲。音声読み上げソフトなどを活用しながら学習や業務に取り組んでいる。
山田さんが向き合ってきた壁は、視覚障害によるものだけではありませんでした。社会人になったばかりの若手として仕事を覚え、期待に応えようとする難しさ。さらに海外では、外国人として異なる言語や文化の中で暮らし、学ぶ難しさもありました。
「見えない・見えにくい」という壁に加えて、若手社会人としての葛藤、海外で暮らす一人の外国人としての不安も重なっていたはずです。それでも山田さんは、その一つひとつを誰かとつながりながら乗り越え、自分のキャリアを少しずつ形にしてきました。
法律を学び、国際法へ|山田さんが法務職を志すまで

まずは、山田さんが法律の道を志した背景について伺いました。この章では以下についてご紹介していきます。
- 法律に興味を持ったきっかけ
- 海外留学への挑戦
- 学びを通して得た視点
法律に興味を持ったきっかけ
山田さんが法律の世界を意識するようになった大きなきっかけは、高校時代に出会った一人の弁護士でした。
それが、視覚障害のある弁護士として活躍されている大胡田 誠さんです。
講演会で話を聞いた山田さんは、大きな衝撃を受けたと振り返ります。
「同じ視覚障害のある方が、法律という専門分野で活躍している姿を見て、自分にも可能性があるのではないかと思いました」
それまで法律は決して遠い存在ではありませんでした。ご家族にも法律に関わる仕事をされていた方がいたことから、法律が社会を支える重要な仕組みであることを、比較的身近に感じていたそうです。
ただ、その世界を自分の進路として考えるようになったのは、この出会いがあったからでした。視覚障害があると、どうしても進路の選択肢を狭く考えてしまうことがあります。
しかし山田さんは、「自分と同じ立場の人が活躍している」という事実によって、新しい可能性を見出したのです。大学進学後は司法試験も視野に入れながら法律を学び続けます。当時は弁護士になることを目標としていました。
海外留学への挑戦
大きな転機となったのはコロナ禍です。司法試験の勉強を続ける中で、自分が本当に進みたい方向について改めて考えるようになりました。
その時に浮かんだのが、「英語と法律を掛け合わせる」という選択肢でした。もともと海外への関心もあり、国際的な視点から法律を学びたいという思いが強くなっていったそうです。
しかし、その矢先にコロナ禍が発生。予定していた海外留学は中止となります。
多くの人が夢を諦めざるを得なかった時期でした。それでも山田さんは立ち止まりませんでした。同志社大学大学院を経て、スイスのチューリッヒ大学大学院への進学を決意します。
視覚障害がある状態での海外生活は、想像以上にハードルが高いものです。移動一つとっても、日本とは勝手が違います。
言語や文化の違いもあります。それでも山田さんは積極的に周囲とのコミュニケーションを図り、自分の居場所を作っていきました。
「まずはいろいろな人と話してみるんです。その中で波長の合う人が見つかったら、少しずつ助けてもらう関係を作っていきました」
その結果、国籍を超えた友人たちとのつながりも生まれたそうです。
学びを通して得た視点
チューリッヒ大学大学院では国際法を学び、修士論文を執筆しました。テーマは環境犯罪です。
企業が河川を汚染した場合などに、どのような法的責任を問うべきかを、日本法とEU法の比較という視点から研究しました。一見すると難しいテーマですが、その背景には「より良い社会を作るために法律は何ができるのか」という問題意識がありました。
「せっかく留学するなら、論文という形で残るものを作りたいと思いました」
結果として、その研究テーマは現在勤務しているエネルギー企業の事業内容とも重なるものとなります。
後から振り返ると、キャリアの伏線になっていたのかもしれません。学び続ける中で山田さんが感じたのは、知識そのもの以上に「考え続ける力」の重要性でした。
答えのない問題に向き合い続ける力。
異なる価値観を理解しようとする姿勢。
それらは現在の法務業務にも生かされています。そして何より、「自分にはできない」と決めつけず、一歩ずつ挑戦を続けてきた経験そのものが、今の山田さんの土台になっているように感じられました。
全盲の法務職として働く中で見えた課題と工夫

ここでは、現在のお仕事について伺いました。この章では以下についてご紹介していきます。
- 法務部門での仕事内容
- 視覚障害のある社会人が直面しやすい課題
法務部門での仕事内容
現在、山田さんはエネルギー関連企業の法務部門に所属し、コンプライアンス業務を担当しています。法務と聞くと、契約書のチェックや法律相談をイメージする方も多いかもしれません。しかし、山田さんが携わっているのは、それだけではありません。
現在は主に、
・海外公務員との会食や接待に関する申請審査
・社内向けコンプライアンス啓発活動
・人権デューデリジェンスに関する情報収集
・社外セミナーへの参加と社内共有
といった業務を担当しています。
特に近年は、企業に求められるコンプライアンスの範囲が広がっています。法令を守るだけではなく、人権への配慮や環境問題への対応、サプライチェーン全体でのリスク管理など、企業が果たすべき責任は年々増えています。
山田さんはそうした社会の変化を最前線で感じながら働いています。
「法律は条文を覚えるだけではなく、社会の変化と一緒に考え続けるものだと思っています」
その言葉からも、法律を単なるルールとしてではなく、社会をより良くするための仕組みとして捉えていることが伝わってきます。
また、電力事業は社会インフラを支える公共性の高い事業です。一つの不祥事が社会全体へ大きな影響を及ぼす可能性もあります。だからこそ、コンプライアンスは経営上の重要課題として位置付けられているそうです。
入社式では経営トップから、
「コンプライアンスを守れない企業に事業を行う資格はない」
という言葉があったといいます。山田さん自身も、その言葉の重みを日々の業務の中で実感しているそうです。
視覚障害のある社会人が直面しやすい課題
一方で、仕事は決して順調なことばかりではありませんでした。特に入社1年目は、大きな壁にぶつかったと振り返ります。当時担当していたのは内部通報対応です。
社内で発生した問題について関係者から話を聞き、事実関係を整理しながら対応を進める業務です。
相手は不安や怒りを抱えていることも少なくありません。話を聞くだけでも精神的なエネルギーを必要とします。
さらに内部通報案件には明確な正解がありません。事実を整理しながら関係部署と連携し、最適な対応を探っていく必要があります。
「かなり精神的にきつかったですね」
山田さんは当時をそう振り返ります。
そして、もう一つ難しかったことがあります。それは、自分が感じている苦労の原因が何なのか分からなかったことです。
「これは視覚障害が原因なのか、それとも自分の経験不足なのか。その区別がつかなかったんです」
視覚障害のある社会人の中には、同じような経験をした人も多いのではないでしょうか。
例えば資料を読むのに時間がかかった時。
会議で情報を把握しきれなかった時。
それが障害によるものなのか、単純に慣れていないからなのか判断できないことがあります。周囲には見えにくい悩みですが、本人にとっては大きな負担になります。
山田さんも試行錯誤を繰り返しながら、自分なりの働き方を模索していきました。
視覚障害のある社会人が働き続けるための対話と工夫

そんな中で支えになったのが職場のコミュニケーション文化でした。山田さんが所属する法務部では、上司を含めて下の名前で呼び合う文化があるそうです。
最初は驚いたそうですが、実際に働いてみると非常に話しやすい環境だったといいます。
「形式的な上下関係よりも、まずはコミュニケーションを大切にする文化なんです」
そのため、困ったことがあれば相談しやすく、自分に何ができて何が難しいのかも率直に共有できました。視覚障害があると、つい「迷惑をかけたくない」と思ってしまうことがあります。
しかし山田さんは、働く中で考え方が少しずつ変わっていきました。一人で頑張るのではなく、周囲を巻き込みながら仕事を進めることも大切なスキルだと気づいたのです。
「できないことを隠すよりも、どうしたらできるかを一緒に考えてもらう方がいい」
その姿勢は、現在の働き方にもつながっています。
また最近では、生成AIも業務や学習に活用しています。視覚障害によって時間がかかる情報整理や文章の要約などを補助してもらうことで、本来集中すべき業務に時間を使えるようになったそうです。
もちろんAIだけですべてが解決するわけではありません。それでも、視覚障害者の就職やキャリア形成において、AIが新しい可能性を広げていることを実感しているといいます。
「以前だったら難しかったことが、今は挑戦できるようになってきています」
その言葉には、テクノロジーへの期待と現実的な手応えの両方が感じられました。
仕事を待つから仕事をつくるへ|山田さんが考えるキャリア形成

山田さんが現在向き合っている大きなテーマについて伺いました。この章では以下についてご紹介していきます。
- 社会人1年目の葛藤
- 自分から動くことの大切さに気づいた
- これから目指したい働き方
社会人1年目の葛藤
学生時代は努力した分だけ成果が見えやすい環境でした。
勉強をすれば成績に反映される。
試験に合格すれば次のステージへ進める。
比較的わかりやすい世界だったといいます。
しかし社会に出ると事情は変わります。与えられた仕事をこなすだけでは評価につながらないこともあります。何を期待されているのか分からず、戸惑う場面もありました。
特に入社直後は、「もっと役に立ちたいのに思うように貢献できない」という焦りもあったそうです。
「学生時代とは違う難しさがありました」
それは視覚障害の有無に関係なく、多くの若手社会人が経験する壁なのかもしれません。しかし山田さんの場合、そこに視覚障害という要素も重なります。
だからこそ、より複雑な悩みになっていたのでしょう。
自分から動くことの大切さに気づいた
転機になったのは、自分から動くことの大切さに気づいたことでした。最初は仕事を与えられることを待っていました。しかし徐々に、自分から学び、自分から提案し、自分から関係を作ることの重要性を感じるようになります。
例えば興味のあるテーマについて情報収集を行う。
セミナーに参加する。
学んだことを社内へ共有する。
小さなことかもしれませんが、その積み重ねが新たな仕事につながっていきました。
「待つのではなく、自分から動くことで見える景色が変わりました」
それは現在の山田さんが大切にしている考え方でもあります。
これから目指したい働き方
山田さんは現在、「仕事を待つ人」ではなく、「仕事をつくる人」になりたいと考えています。その背景には、社会人として働く中で感じた課題意識があります。
企業にはさまざまな業務がありますが、与えられた仕事だけをこなしていると、自分の価値を十分に発揮できない場面もあります。
特に視覚障害がある場合、周囲が配慮して仕事量を調整することもあります。
もちろん、それ自体は悪いことではありません。しかし山田さんは、「配慮を受ける側」で終わりたくないという思いを持っています。
「どうしたら自分だからできる価値を生み出せるかを考えたいんです」
その言葉がとても印象的でした。現在は法務部門で経験を積みながら、自分の強みをさらに伸ばそうとしています。山田さんが考える自身の強みは、継続力と論理的思考力です。
一方で、資料作成や大量の情報処理など、視覚障害によって時間がかかる部分もあります。そうした弱みについては、AIや周囲とのコミュニケーションによって補完していく考えです。
「全部を一人でできる必要はないと思っています」
近年は生成AIの進化によって、視覚障害者の働き方にも変化が生まれています。文章の要約や整理、アイデア出しなど、これまで時間がかかっていた作業をサポートしてくれるようになりました。
山田さんもメンターであるエンジニアの先輩とAI活用について意見交換を重ねながら、自分の仕事へ取り入れています。
その中で印象に残っている考え方があるそうです。
それが、
「8割できれば、ほぼできているのと同じ」
という考え方です。
完璧を求めすぎると、なかなか前へ進めません。
まずはやってみる。試しながら改善していく。そうした姿勢が、これからの時代にはますます大切になるのかもしれません。
将来的には、法務の専門性と国際的な視点、そしてAI活用の知見を組み合わせながら、自分ならではの価値を発揮できる人材になりたいと考えています。
その挑戦は、まだ始まったばかりです。
With Blindで広がる学びとつながり|AI活用とキャリアのヒント

最後に、With Blindへの思いについて伺いました。この章では以下についてご紹介していきます。
・成功談だけではなく、苦労した過程を知りたい
・同世代の視覚障害者とのつながりを求めて
・学びを仕事に活かしていきたい
成功談だけではなく、苦労した過程を知りたい
山田さんがWith Blindに参加した理由は、とてもシンプルなものでした。
それは、
「同じ視覚障害のある人たちが、実際にどう働いているのか知りたかった」
からです。職場には視覚障害者が自分しかいません。
だからこそ、自分以外の当事者がどのような工夫をしながら働いているのか知る機会は貴重でした。世の中には成功事例が数多く紹介されています。
しかし山田さんが本当に知りたかったのは、成功の裏側でした。
どんな壁があったのか。
どうやって乗り越えたのか。
失敗した経験はなかったのか。
そうしたリアルな話にこそ価値があると感じていたそうです。
「うまくいった話だけじゃなくて、その途中の試行錯誤を知りたかったんです」
その言葉には、多くの視覚障害当事者が共感するのではないでしょうか。
同世代の視覚障害者とのつながりを求めて
With Blindへ参加して感じた大きな価値の一つが、人とのつながりでした。学生時代は盲学校や大学で同じ立場の仲間と出会う機会があります。
しかし社会人になると、その機会は一気に減ります。特に一般企業で働いている場合、職場に視覚障害者が自分しかいないことも珍しくありません。山田さんもその一人でした。
だからこそ、同じように働いている人たちと話せる場は大きな刺激になったといいます。
職場での工夫。
業務効率化の方法。
AIの活用方法。
キャリアの考え方。
同じ視覚障害があっても、置かれている環境や考え方は人によって異なります。そうした多様な経験に触れることで、新しい発見が生まれているそうです。
「自分では思いつかなかった方法を知れるのが面白いですね」
仲間との対話が、新たな挑戦へのヒントになっています。
学びを仕事に活かしていきたい
With Blindで得ているものは、人とのつながりだけではありません。実践的な学びも大きな魅力です。特に近年はAI活用への関心が高まっています。視覚障害者にとってAIは単なる便利なツールではありません。これまで難しかったことを可能にしてくれる存在でもあります。
山田さん自身も、AIによって働き方の選択肢が広がっていることを実感しています。ただし、AIは万能ではありません。大切なのは、自分の目的に合わせて使いこなすことです。
だからこそ、実際に活用している仲間から学べる環境には大きな価値があります。
学び続けること。
挑戦し続けること。
仲間とつながること。
With Blindには、そのための環境があります。山田さんの姿からは、その価値が自然と伝わってきました。
まとめ|キャリアは一人で築くものではない
山田さんのお話から伝わってきたのは、「できるか、できないか」ではなく、「どうすればできるか」を考え続ける姿勢でした。高校時代に出会った視覚障害のある弁護士への憧れから法律を学び始め、同志社大学大学院、そしてチューリッヒ大学大学院へ進学。
国際法を学びながら環境犯罪について研究し、現在はエネルギー関連企業の法務部門でコンプライアンス業務に携わっています。しかし、その歩みは決して順調なことばかりではありませんでした。
就職後には、視覚障害がある中で働く難しさにも直面しました。自分の課題が障害によるものなのか、それとも経験不足なのか分からず悩んだこともあります。
それでも山田さんは立ち止まりませんでした。周囲とのコミュニケーションを大切にしながら、自分にできることを増やしていきました。
そして今は、「仕事を待つ」のではなく、「仕事をつくる」という新たな目標に向かって歩み続けています。その姿から感じたのは、キャリアは決して一人で築くものではないということです。
職場の仲間。
メンター。
そしてWith Blindで出会った仲間たち。
さまざまな人とのつながりが、新たな挑戦を支えています。
最後に、山田さんが視覚障害のある学生や若手社会人へ向けて語ってくださった言葉をご紹介します。
「諦めるという習慣はつけない方がいいと思います。自分のできる範囲で努力しながら、やりたいことをやってみる。その環境を自分で切り拓いていくことの積み重ねが大切だと思います」
その言葉は、今まさに進路や働き方に悩んでいる人にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。
視覚障害があり、仕事や学び直し、AI活用について相談したい方へ
山田さんのように、仕事の進め方やAI活用、キャリアの広げ方について悩んでいる視覚障害のある方は少なくありません。With Blindでは、同じような課題を経験してきた仲間や講師とつながりながら、学び直しやAI活用、働き方の相談ができる場をつくっています。
「自分にもAIが使えるのか知りたい」
「仕事の幅を広げたい」
「職場での困りごとを相談したい」
「同じ視覚障害のある社会人とつながりたい」
そんな方は、ぜひWith Blindの講座や個別相談をご活用ください。
※画像はイメージです。


