「AIを使ってみたい。でも、何を作ればいいのだろう」「操作を覚えるだけで終わりそう」——そんな人におすすめしたいのが、好きなことを一つ選び、7日間で小さな作品にする方法です。
題材は、推し活、音楽、料理、旅行、ゲーム、家族の思い出、仕事で実現したいことなど、何でもかまいません。大切なのは、AIを勉強の目的にするのではなく、自分の「好き」や「やってみたい」を形にするための道具として使うことです。
過去のWith Blindの講座では、視覚障害のある受講者がスクリーンリーダーや音声入力を使いながら、文章の構成を考えたり、情報を整理したり、企画書やチラシのたたき台を作ったりしてきました。講師が一つの正解を教えるのではなく、その人が普段使っている端末や操作方法に合わせ、一緒に試しながら進めるのがWith Blindの学び方です。
この記事では、視覚障害のある人はもちろん、家族や友人、支援者も一緒に楽しめる「7日間の作品づくり」を紹介します。文章を作る生成AIだけでなく、Codexのように、依頼した目的に向かってファイルを調べ、作り、動作を確かめるAIエージェントの活用例も取り上げます。
なぜ「好き」から始めるのか
新しい道具は、機能を順番に覚えるだけではなかなか身につきません。一方、「好きな歌を紹介するページを作りたい」「次の旅行で使う持ち物リストがほしい」のように目的が具体的だと、必要な機能も自然に見えてきます。
見え方や操作方法は人によって違います。キーボード中心で使う人、スマートフォンの音声入力が得意な人、家族との会話からアイデアが生まれる人もいます。With Blindでは、障害だけをテーマにするのではなく、その人の興味や経験を出発点にします。視覚障害への配慮は、作品づくりを支える工夫として自然に組み込みます。
始める前に決める三つのこと
完成品は小さくする
最初から本一冊や本格的なアプリを目指す必要はありません。800字の記事、3分の音声番組、5問のクイズ、1枚のイベント案内、家族旅行のしおりなど、7日で完成できる大きさにします。小さく完成させると、「次はここを変えたい」という二作目のアイデアが生まれます。
自分に合う入力と確認の方法を選ぶ
キーボード、音声入力、点字ディスプレイなど、使いやすい方法を選びます。長い文章はスクリーンリーダーで聞き、見出しだけは家族に画面で確認してもらうなど、複数の方法を組み合わせてもかまいません。
入力しない情報を決める
氏名、住所、電話番号、病歴、勤務先の未公開情報、他人の写真や会話などは、必要がなければAIに入力しません。公開する作品では、著作権や肖像権にも注意します。AIの答えは完成品ではなく、必ず人が確かめる「たたき台」と考えましょう。
「好き」を作品にする7日間
1日目 好きなものを声に出す
まずは、最近うれしかったこと、何時間でも話せること、誰かに紹介したいことを思いつくまま挙げます。文字にするのが負担なら、スマートフォンの音声メモで十分です。
AIへの頼み方:「私は昭和歌謡、電車の音、温泉旅行が好きです。7日間で作れて、音声でも楽しめる作品案を10個ください。費用は2,000円以内です」
家族や支援者は「どれが一番好き?」と答えを決めるのではなく、「最近それを誰かに話した?」「どんな瞬間が楽しい?」と、本人の言葉が増える質問をします。
2日目 届けたい相手を一人決める
作品を届けたい相手を具体的にします。「みんな」よりも、「同じ歌手が好きな友人」「初めて一人旅をする弟」「料理を始めた娘」のように一人を思い浮かべると、言葉や内容を選びやすくなります。
この日に、完成形も決めます。たとえば「友人と聞く3分の推し語り」「家族に送る温泉旅行のしおり」「音で答えられる鉄道クイズ5問」です。
3日目 自分だけの材料を集める
AIに全部を書かせる前に、自分の体験を集めます。推し活なら、初めて曲を聞いたときの気持ちやライブの思い出。旅行なら、駅の音、食べ物の香り、店員との会話、迷いやすかった場所。料理なら、焼ける音や香りなど、自分が判断に使っている感覚です。
事実を調べるときは、公式サイトや信頼できる情報源も確認します。AIには、分からないことを推測せず「不明」と書くよう頼むと、確認する場所を見つけやすくなります。
4日目 AIと最初の形を作る
集めた材料をAIに渡し、構成や初稿を作ります。うまく頼もうと身構える必要はありません。「誰に」「何を」「どんな雰囲気で」「どのくらいの長さで」の四つを伝えるだけでも、答えはかなり変わります。
例:「次の体験メモだけを材料に、同じ歌手が好きな友人へ話す3分の音声台本を作ってください。明るい会話調にして、事実を付け足さないでください」
出てきた文章に自分らしさがなければ、「もっと普段の話し方に」「説明を減らして、当日の音や会話を増やして」と伝えます。AIとのやり取りは、一度で正解を出す試験ではなく、編集会議のようなものです。
5日目 Codexで「動く作品」にしてみる
文章や画像を作るAIに加え、CodexのようなAIエージェントを使うと、アイデアを小さなウェブページやクイズなどに発展させられます。たとえば、好きな曲の紹介メモを、見出しと再生ボタンのあるページに整理する。旅行先の候補を、キーボードで選べるクイズにする。家族で使う持ち物チェックリストを、ブラウザーで動く形にする、といった使い方です。
プログラミング用語をたくさん知っている必要はありません。「何を作りたいか」「誰が使うか」「どんな操作が必要か」を具体的に伝えます。
Codexへの依頼例:「家族旅行で使う、シンプルな持ち物チェックページを作ってください。スクリーンリーダーで項目名とチェック状態が分かり、キーボードだけで操作できるようにしてください。文字を大きくし、コントラストも十分にしてください。完成後に操作を確認してください」
AIエージェントはファイルの作成や修正、確認まで手伝えますが、意図どおりかを決めるのは人です。特に、読み上げ順、ボタン名、キーボード操作、エラー時の案内は、実際に使って確かめます。うまく動かなければ、その状況をそのまま伝えて直してもらいます。失敗も作品づくりの一部です。
6日目 聞く・触る・使うで確かめる
完成に近づいたら、内容だけでなく使いやすさも確認します。文章なら見出しだけを順に読んで意味が通るか。画像には代替テキストがあるか。音声なら固有名詞が正しく聞こえるか。ウェブページならキーボードだけで最後まで操作できるかを試します。
家族や支援者は、本人の代わりに操作を終わらせるのではなく、「今どこを読んでいるか」「何が起きると思ったか」「実際にはどうなったか」を一緒に言葉にします。必要なら画面の見た目を伝えますが、最終的な表現は本人が選びます。
7日目 一人に届けて、次の一歩を残す
作品を、2日目に決めた相手へ届けます。大勢への公開でなくてもかまいません。家族に聞いてもらう、友人へURLを送る、講座仲間に試してもらう。実際に誰かが使うと、作品の良さと改善点が分かります。
最後に、「楽しかったこと」「困ったこと」「次に一つだけ変えたいこと」を残します。完成は終点ではなく、自分の選択肢が一つ増えた日です。
こんな作品なら、7日で楽しく作れる
推し活:声で楽しむ「私のベスト3」
好きな曲や場面を三つ選び、それぞれの思い出を1分ずつ語る音声台本にします。ランキングの正しさではなく、「なぜ自分はそこが好きなのか」が作品の中心です。家族や友人から質問をもらうと、思いがけないエピソードも見つかります。
旅行:音と香りでたどる小さな旅行記
駅のアナウンス、足元の感触、食事の香り、同行者との会話などを短い章に分けます。写真中心ではない旅行記は、視覚障害の有無に関係なく、その場にいるような楽しさを伝えられます。他人の声を公開するときは、必ず許可を取りましょう。
料理:感覚で分かるレシピ
「きつね色になるまで」だけでなく、「泡の音が小さくなる」「香りが甘く変わる」など、自分が使っている手がかりを書きます。AIに手順を整理してもらい、実際に家族と作って危険な場面や分かりにくい表現を直します。
ゲーム:家族で遊べる音声クイズ
家族の思い出や好きな音楽を題材に、三択クイズを5問作ります。AIに難易度を調整してもらい、Codexでキーボード操作できる簡単なページにするのも面白いでしょう。勝ち負けだけでなく、答えの後に思い出話が始まる問題を混ぜるのがコツです。
仕事:自分の得意を伝える一枚
得意な作業、普段使っている支援技術、必要な配慮、挑戦したい仕事を整理し、面談用の自己紹介や一枚の資料にします。AIに文章を整えてもらっても、経験や希望を勝手に補わせないことが大切です。
With BlindらしいAIの学び方
With Blindが大切にしているのは、「視覚障害があるから、できることを限定する」という考え方ではありません。好きなこと、働きたい気持ち、家族と楽しみたい時間から出発し、その実現に必要な操作や工夫を一緒に探します。
また、支援する人だけが教え、視覚障害のある人だけが教わる関係にも固定しません。本人のスクリーンリーダーの使い方や、音・触覚から得ている情報は、家族や支援者にとって新しい発見になります。反対に、家族が見つけた画面上の分かりにくさが改善につながることもあります。同じ作品を囲み、互いの得意を持ち寄ることが、With Blindらしい共創です。
AIは、できないことを隠す魔法ではありません。考えを整理し、試作品を作り、やり直す回数を増やしてくれる道具です。だからこそ、作品の中心には、その人自身の体験と言葉を置きます。
困ったときに使える頼み方
- 「難しい言葉を使わず、中学生にも分かるように説明してください」
- 「スクリーンリーダーで聞きやすいように、短い文と見出しで整理してください」
- 「私が書いた内容は変えず、順番だけ分かりやすくしてください」
- 「事実と提案を分け、確認が必要な箇所には印を付けてください」
- 「このページをキーボードだけで使えるか点検し、問題点と修正案を示してください」
まとめ——AIで増やしたいのは、自分で選べること
7日間で大作を作る必要はありません。好きなことを一つ選び、小さく作り、誰かに届ける。その経験が、「次は音声にしたい」「ウェブページにもしてみたい」「仕事でも使えそう」という次の選択につながります。
今日の一歩は、好きなことを三つ、声や文字でメモするだけで十分です。AIに任せきりにせず、自分の体験を材料にして、聞いて、試して、選び直す。そうしてできた作品には、便利さだけではない、その人らしい面白さが残ります。
参考情報
- オンラインスクールWith Blind「初めての方へ」
- オンラインスクールWith Blind「視覚障害者向け生成AI講座 開催報告」
- With Blind「視覚障害と向き合いながら働く|AIで職域拡大に挑む受講生インタビュー」
- OpenAI「Codex」公式情報
- デジタル庁「生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」
※AIの出力には誤りや偏りが含まれることがあります。制度、医療、契約、安全に関する情報は、必ず専門家や公式資料で確認してください。


