視覚障害のある人を採用したものの、任せる仕事が広がらない。
本人に意欲や経験があっても、入社後の準備が不足すると力を発揮しにくくなります。採用担当者、上司、同僚が「何を確認すればよいか分からない」ことも珍しくありません。
この記事では、採用前から入社90日までに行うことを順番に整理します。目的は、視覚障害のある社員だけに職場への適応を求めることではありません。本人と会社が仕事の進め方を一緒につくることです。
この記事で分かること
- 障害名だけで仕事を決めない考え方
- 募集・選考で確認すること
- 入社前に準備すること
- 入社1〜30日の進め方
- 31〜60日に役割を広げる方法
- 61〜90日の評価方法
- そのまま使える90日チェックリスト
- 相談先・動画・参考資料
視覚障害だけで「できる仕事」を決めない
視覚障害には、全盲、弱視、視野が狭い状態、中心が見えにくい状態、暗い場所で見えにくい状態などがあります。同じ診断名でも、見え方や仕事の方法は異なります。
画面読み上げソフトを使う人もいます。画面を拡大する人もいます。配色を変更する人や、点字ディスプレイを使う人もいます。
そのため、「視覚障害者には電話業務」「事務ならできる」と職種を固定する方法は適切ではありません。先に確認したいのは、次の3点です。
- これまで、どのような成果を出してきたか
- どのような方法や環境なら、その成果を再現できるか
- 入社後、どのような仕事へ広げたいか
最初に知っておきたい言葉
- 合理的配慮
- 障害のある人が仕事をするうえで支障となる点を、本人と会社が話し合い、過重な負担にならない範囲で調整することです。特別扱いではなく、能力を発揮するための条件調整です。
- スクリーンリーダー
- パソコンやスマートフォンの画面情報を音声や点字で伝えるソフトです。WindowsのPC-TalkerやNVDA、iPhoneのVoiceOverなどがあります。
- アクセシビリティ
- 年齢や障害の有無にかかわらず、情報やサービスを利用できる状態を指します。見出しを設定したWord文書や、キーボードで操作できるシステムもその一例です。
- オンボーディング
- 入社した人が仕事、職場のルール、人間関係を理解し、力を発揮できるようにする一連の支援です。本記事では入社前から90日までを扱います。
採用前|履歴書だけで判断しない
求人票に「相談できること」を書く
「障害者歓迎」だけでは、応募者は必要な配慮を相談できるか判断できません。業務内容と一緒に、次の情報を示します。
- 主な業務システムと成果物
- 出社・在宅勤務の考え方
- 選考時に相談できる配慮
- 支援機器や業務環境を試せるか
- 入社後の相談担当者
たとえば、「適性検査の読み上げ対応を確認します。難しい場合は代替方法を相談します」と書きます。会社が現時点で対応できないことも、曖昧にせず説明します。
面接では「仕事の方法」を聞く
病歴や診断名を詳しく聞くことが目的ではありません。実際の仕事に必要な条件を確認します。
- 文書やメールは、普段どのように読んでいますか
- 初めてのシステムは、どのような説明があると覚えやすいですか
- これまで成果を出せた仕事と、そのときの環境を教えてください
- 選考や入社時に必要な調整はありますか
- 今後、経験を広げたい仕事はありますか
本人にも、職場やシステムを確認する機会が必要です。選考は会社が一方的に見極める場ではありません。双方が働き方を確認する場です。
実務に近い課題は、評価条件を先にそろえる
実技確認を行う場合は、日常業務に近い小さな課題を使います。資料は読み上げ可能な形式で渡します。普段使う支援機器も利用できるようにします。
速さだけで評価しません。確認の仕方、情報整理、成果物の正確さ、周囲との連携も評価します。障害を試す課題にしないことが重要です。
入社前|初日に初めてシステムを試さない
入社初日に業務システムが使えないと、本人は仕事を始められません。周囲も「この仕事は難しい」と誤解しやすくなります。
次の環境を、できるだけ入社前に確認します。
| 確認対象 | 具体的な確認 | 難しい場合の例 |
|---|---|---|
| PC | 画面読み上げ、拡大、配色、キーボード操作が使えるか | 必要なソフトの導入、別端末の準備 |
| 勤怠・社内システム | ログイン、入力、申請、承認まで一人で操作できるか | CSV入力、別フォーム、改修期限を設定 |
| 文書 | Wordの見出し、Excelの表、PDFの文字を読み上げられるか | 元データを共有し、画像PDFは文字認識する |
| 会議 | 資料を事前に共有できるか。画面共有の内容を言葉でも説明するか | 議題と元資料を先に送り、説明担当を決める |
| 職場内の移動 | 席、会議室、トイレ、避難経路を本人と確認したか | 初日に一緒に歩き、変更時の連絡方法を決める |
すべてを一度に直せない場合もあります。その場合は、最初に担当する仕事から優先します。暫定対応、担当者、改善期限を記録してください。
入社1〜30日|配慮と期待する成果を同時に決める
初月の面談を「困っていることはありますか」だけで終わらせないようにします。上司と本人で、次の4点を一枚にまとめます。
- 30日までに作る成果物
- 本人が使う方法と道具
- 困ったときの相談先
- 次に見直す日
たとえば、目標が「会議議事録を週2本作成する」だとします。音声記録の扱い、テンプレート、固有名詞の確認方法、提出期限まで決めます。
同僚がすべて代わりに作る必要はありません。本人が音声とキーボードで初稿を作ります。同僚は機密情報や最終レイアウトを確認します。このように工程を分けると、本人の役割が明確になります。
週1回、15分の短い面談を行う
「困ったら声をかけて」だけでは相談しにくいことがあります。毎週15分、次の3点を確認します。
- 止まった仕事
- 自分で解決できたこと
- 次の1週間で試すこと
面談の記録は長文にしません。決まったこと、担当者、期限だけを残します。
同僚への説明は、本人を教材にしない
視覚障害の基礎、声のかけ方、資料の作り方、緊急時の動きを共有します。本人の障害や私生活を、本人の同意なく説明してはいけません。
本人が共有したい範囲で、「仕事をしやすくする方法」を伝えます。同時に、チームのルールや仕事の進め方も本人へ説明します。相互理解にすることが大切です。
31〜60日|単発の手伝いから、継続する役割へ
仕事を毎回切り出して渡すだけでは、本人は見通しを持てません。上司の指示負担も増えます。30日を過ぎたら、繰り返し担当する業務を一つ以上決めます。
業務は次の順番で検討します。
- そのままできる:現在の方法で担当できる
- 形式を変えればできる:画像を文字にする、ショートカットを使う
- 工程を分ければできる:本人と同僚で一部ずつ担当する
- 現時点では難しい:安全性や費用を含め、代替が難しい
「できない」と判断する前に、情報の形式と作業工程を見直します。画像だけの申請書は文字データにできないか。マウス操作が必須のシステムは、キーボードやCSVで代替できないか。元データを提供できないかを検討します。
改善提案も仕事として扱う
使いにくい資料やシステムに気づくことは、組織への貢献です。改善案を「個人的な要望」で終わらせず、業務改善として記録します。
見出しを付けた文書や、分かりやすいファイル名は、ほかの社員にも役立ちます。新入社員や在宅勤務者も情報を探しやすくなります。
61〜90日|本人だけでなく、職場環境も評価する
90日目に「本人が職場へ適応したか」だけを評価すると、使いにくい環境を努力で乗り越えたかを見ることになります。本人の成果と、会社側の改善を分けて確認します。
| 見るもの | 確認例 |
|---|---|
| 本人の成果 | 担当業務の品質、期限、改善提案、学んだ技能 |
| 仕事の広がり | 継続して任せられる業務、次に試す業務 |
| 情報へのアクセス | 一人で操作できるシステム、事前共有された資料の割合 |
| 相談体制 | 相談先が明確か。相談から対応まで時間がかかりすぎていないか |
| チームの変化 | 資料、会議、業務手順がほかの社員にも分かりやすくなったか |
ここで次の90日の役割と学習目標を決めます。配慮事項も見直します。最初に決めた方法が、現在も最適とは限りません。
支援機器と生成AIは「本人が使える形」で導入する
画面読み上げソフト、拡大読書器、点字ディスプレイ、文字認識などは、仕事の選択肢を広げます。JEEDには、事業主向けに就労支援機器を一定期間、無料で貸し出す制度があります。
生成AIは、長文の要約、文章の下書き、情報整理、画像の説明、コード作成などに使えます。ただし、会社の利用規程、機密情報、著作権、出力確認のルールが必要です。
With Blindでは、視覚障害のある事務職向けに、生成AIやAIエージェントを扱う講座を開催してきました。講座で重視したのは、AIに仕事を丸投げすることではありません。本人が結果を確認し、仕事の質を上げる手順を持つことです。
よくある失敗と、具体的な切り替え方
仕事を渡さないことを配慮と考える
失敗を防ぐために仕事を減らすと、経験を積む機会も減ります。影響の小さい実務から始めます。確認者と期限を決め、小さく任せてください。
「困ったら言って」で終える
本人から毎回声を上げるのは負担です。週1回の短い面談を予定に入れます。相談を個人の勇気に任せない仕組みが必要です。
配慮を一度決めたままにする
仕事、見え方、ツールは変化します。配慮は完成品ではありません。2週間、30日、60日、90日で見直します。
人事だけが抱え込む
人事は制度と調整を担当します。上司は業務と評価を担当します。IT部門はシステムを担当します。支援機関は専門的な助言を行います。役割を分ければ、特定の人の善意に依存しません。
実務で使う90日オンボーディング・チェックリスト
チェックを付けるだけで終わらせず、「担当者」「期限」「確認結果」を記録してください。該当しない項目には、その理由を残します。
募集・選考
- 求人票に業務内容と成果物を書いた
- 選考時に相談できる配慮を案内した
- 実務で使うシステムや資料形式を説明した
- 本人の経験、仕事の方法、今後の希望を確認した
- 必要以上の医療情報を求めていない
入社前
- PCと必要な支援機器を準備した
- 勤怠、チャット、会議、社内システムを試した
- 読み上げ可能な資料を用意した
- 席、移動経路、避難経路を確認する予定を立てた
- 上司、人事、IT、日常の相談担当を決めた
- 未解決の問題に担当者と期限を設定した
1〜30日
- 最初の成果物と完了条件を決めた
- 週1回15分の面談を設定した
- 本人の同意を得た範囲で同僚へ説明した
- 資料やシステムで止まった箇所を記録した
- 本人が自分で完了できる工程を増やした
31〜60日
- 継続して担当する業務を一つ以上決めた
- 業務を「そのまま・形式変更・工程分担・困難」に分けた
- 必要な研修や支援機器を試した
- 改善提案を業務上の成果として記録した
- 上司と本人の期待にずれがないか確認した
61〜90日
- 本人の成果と職場環境の改善を別々に評価した
- 継続業務と次に試す業務を決めた
- 配慮の継続・変更・終了を本人と確認した
- 次の90日の役割と学習目標を決めた
- 成功した方法と未解決の課題をチームで共有した
読んだ後の次の一歩
最初から完璧な制度を作る必要はありません。まず、実際の業務を一つ選んでください。その業務の成果物、使用するシステム、情報の形式を書き出します。
- 候補者または本人へ、普段の仕事の方法を聞く
- 実際のシステムと資料を一緒に試す
- 最初の30日で担当する小さな実務を決める
- 担当者と見直し日を決める
社内だけで判断が難しい企業・団体の方へ
With Blindは、視覚障害のある人の働き方、合理的配慮、ICT・生成AI活用、職場での対話に関する講座や情報提供を行っています。
With Blindの実践記事・公的資料・相談先
With Blindの講座・座談会・取材から学ぶ
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企業担当者が確認したい公的資料
まとめ|採用はゴールではなく、仕事を一緒につくる出発点
視覚障害者の採用で大切なのは、障害名から仕事を決めることではありません。期待する成果と、成果を出すための条件を本人と確認することです。
採用前に仕事の方法を話します。入社前にシステムを試します。最初の30日で小さな実務を確立します。60日までに継続する役割を作ります。90日目には、本人の成果と職場環境の両方を評価します。
With Blindが講座、座談会、取材を通じて学んできたのは、対話だけでも、道具だけでも十分ではないということです。仕事、情報環境、役割、評価を一緒に整えることで、本人とチームの力が発揮されます。
※合理的配慮は、本人の希望、職務、職場環境、会社側の負担を踏まえて個別に検討します。個別案件は、ハローワーク、地域障害者職業センター、都道府県労働局などにもご相談ください。


