中途視覚障害者が職場で役割を試行錯誤する「対話術」と、仕事も推し活も諦めない生き方

中途視覚障害でも仕事も推し活も諦めない|職場でできることを広げる対話と企画力(着実にステップアップする様子をイメージした階段のイラスト) 仕事・キャリア
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視覚障害があることで、できることや必要な配慮が周囲に十分伝わらず、もどかしさを感じたことはありませんか?

見え方の変化に合わせた業務調整、リモートワークの中での情報共有、職場との関わり方。

一つひとつの場面で、「どう伝えればよいのか」「どのように接点をつくればよいのか」と悩みながらも、自ら「1時間の対話の場」をつくり、大好きなエンタメの世界では「見えなくても、一人でだって会いに行く」と、好きなことにまっすぐ向き合い、人生を楽しむ方がいます。

今回お話を伺ったのは、企業のダイバーシティ業務に携わる傍ら、一般社団法人With Blindで自分に合った働き方を模索している行田和美(ゆきた・かずみ)さん。

「仕事もプライベートも、好きなことは絶対に諦めたくない」

行田さんの言葉には、見え方の変化と向き合いながらも、自分にできる工夫を重ねる強さと、具体的なヒントがあふれていました。

行田さんは、視覚障害のある社員がどのように働けるのかを、本人と周囲が一緒に具体化していく機会の大切さを感じてきたといいます。

本記事では、中途視覚障害を経験しながら企業のダイバーシティ業務に携わる行田和美さんの言葉を通して、職場で「できること」を伝える工夫、リモートワークでもつながりを保つための対話のつくり方、そして視覚障害があっても好きなことを諦めない一歩の踏み出し方を考えます。

ケーキを手に持ち、笑顔の行田和美さん
▲今回お話を伺った、行田さん。

行田和美さんのプロフィール

  • 中途視覚障害当事者
  • 網膜色素変性症(弱視)
  • 20代
  • 企業でダイバーシティ業務に従事
  • With Blindの「AIと対話で切り開く視覚障害者の新しい働き方講座」を受講
  • 嵐、timelesz、志尊淳のファンであり、イベントがあれば積極的に参加

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中途視覚障害と向き合いながら、できることを伝えていく難しさ

職場でできることや必要な配慮が十分に伝わらない状況を表すイラスト

入社してちょうど10年目を迎える行田さん。

最初は視覚障害がない状態で就職活動をし、「誰かのため」「社会貢献性」を軸に選んだ会社でした。

しかし、入社3年目のとき、網膜色素変性症が判明します。

初めは大きな違和感なく仕事を続けていましたが、見え方の変化に合わせて、働き方や業務内容を少しずつ見直していく必要が出てきました。

自分なりに働きやすい環境を整えようと、周囲に説明を重ねてきた行田さん。その中で感じたのは、視覚障害のある働き方を具体的に共有する機会の少なさや、業務の進め方を一緒に考える難しさでした。

「こういう業務なら私はできます」と伝えても、実際に働く姿を具体的にイメージしてもらうことが難しかったり、逆に「こういう業務は難しいです」と説明しても、どのような配慮があれば取り組めるのかを共有しきれなかったりする場面があったそうです。

その結果、自分の強みやできることを十分に活かしきれない時期もありました。

画面読み上げ用の音声ソフトを導入してもらうなどの配慮はありましたが、その活用イメージを周囲と共有する機会は、まだ十分ではありませんでした。

社内全体を見渡せば、障害のある社員は20名ほど在籍しています。

しかし、その中で視覚障害があるのは行田さんを含めてわずか2人だけ。

もう1人の方とは年齢や部署が異なり、日常的に情報交換できる機会は限られていたそうです。

だからこそ、会社全体として、視覚障害のある社員がどのように業務を進められるのか、具体的なイメージを共有する機会の大切さを感じるようになりました。

自分から上司や同僚に伝えても、見え方や必要な配慮を具体的にイメージしてもらうことの難しさがある。

現在、在宅勤務で業務をこなすフルリモートワークへと移行したことで、職場の方と直接関わる機会も以前より少なくなったそうです。

リモートワークが中心になることで、職場の何気ない交流に参加する機会が少なくなり、少し寂しさを感じる場面もありました。

できることや得意なことを職場に伝える機会、そして仲間とのつながりを保つ機会を、意識してつくっていくこと。

そうしたもどかしさの中で、行田さんの試行錯誤が始まりました。

リモートワークでもつながりを保つ、月1回の個別対話

対話する2人のイラスト

在宅勤務になったことで、行田さんは「情報共有のタイミングをつかみにくい」という新たな課題にも直面します。

社内には、部署長判断で「週2日や週3日の在宅勤務はOK」とされている部署があったり、育児や介護といった理由でリモートワークをしている社員もおられるそうです。

一方で、行田さんの所属部署では、対面でのコミュニケーションを大切にする働き方が中心でした。

そのため、オフィスにいるメンバー同士の何気ない会話や雑談の中で、仕事の課題が解決したり、情報がアップデートされたりすることもあるといいます。

在宅で業務を進める自分が、そうした情報にどうアクセスしていくか。行田さんはその状況を受け止めたうえで、自ら接点をつくる工夫を始めました。

月に1回、部署の定例会があるんです。そこで共有される情報をまずはしっかりキャッチする。そのうえで、定例会のあとに1時間程度、グループの中の1人にオンラインで個別に話す時間を設けてもらうように最近したんです。少しでも気になったことや「ここをこう変えたらもっと良くなるのでは」と感じたことを伝えたり、「今どんな状況なんだよね」とリアルな話を聞いたり。そうやって対話する時間を設けたことで、今の職場の状況が少しずつわかるようになってきました。

進めづらさを感じたとき、ただ待つのではなく、自ら対話する場をつくる。

これこそが、行田さんが試行錯誤の中で見出した、在宅勤務でも情報を得るために接点をつくるアプローチです。

職場にいる人たちにとっては当たり前に共有されている情報でも、働き方が変わると受け取り方が変わることがあります。だからこそ、本人からも働きかけながら、職場と一緒に情報共有の方法を整えていくことが大切なのだと感じます。

職場の合理的配慮を進める「障害理解促進シート」の企画力

障害理解促進シートをイメージした書類のイラスト

見え方の変化や働き方の調整に向き合いながらも、行田さんには胸を張れる独自の強みがあります。

それは、視覚障害になる前の研修企画部署時代から培ってきた「前例のないことをゼロから形にする企画力」と「対象者に合わせて内容をブラッシュアップしていく力」です。

現在のダイバーシティ関連の部署に異動した当初は、外部から全盲の弁護士を招いた講演会を自ら企画。

さらに、働く障害者と受け入れる職場をつなぐための「障害理解促進シート」やハンドブックを、チームで作り上げました。

一般的な障害種別に対して、配慮事項や特徴などをまとめたエクセルベースのシートを作りました。ただ、特性や必要な配慮は人によって必ずしも一緒ではありません。だからこそ、面談を通じて「その人独自の配慮事項や特性」を横に並べて書ける形にして、上司にその人の特性をちゃんと知ってもらったうえで働けるようにしたんです。伝える側の障害者にとっても、受け入れる上司にとっても、具体的なすり合わせができるメリットがあると思って企画しました。

大切なのは、障害名だけで判断するのではなく、その人がどんな環境なら力を発揮できるのかを、本人と職場が一緒に確認していくことでした。

このシートは、最初は新しく入社してきた人向けに作られ、その後はすでに働いている人にも面談のタイミングで広げていく流れがあったそうです。

現在は担当業務の変化もあり、行田さんがその企画に直接関わる機会は少なくなっています。

それでも、担当から離れた今も、その経験は行田さんにとって大切な財産になっています。障害のある社員として、そしてシートやハンドブックの作り手として、行田さんは周囲と働くうえで大切にしたい視点をこう話します。

「視覚障害がある」という情報だけで、最初から業務の可否を判断しないでほしいです。確かにその業務の全部は難しくても、分解してみれば「ここの部分はできるし、むしろ得意」という強みが隠れているかもしれない。ちゃんとその人と向き合って対話していかないと、その人の強みも、できること・難しいことも見えてこないと思うんです。だからこそ、対話する機会があることが大切だと感じています。

大切なのは、障害名だけで業務の可否を判断するのではなく、本人の状況を丁寧に確認しながら、業務を分解し、その人自身の「できること」や「強み」を一緒に見つけていくことでした。

With Blindとの出会いが広げた、視覚障害者の新しい働き方

オンライン講座のイラスト

自分に合った働き方を模索していたとき、行田さんに新しい風を吹き込んだのが、一般社団法人With Blindとの出会いでした。

同じ「網膜色素変性症」の患者コミュニティで、With Blindの記事や講座を目にしたことがきっかけです。

「興味があるから参加してみよう」というその一歩から、行田さんの世界は大きく広がり始めました。

最初はオフラインで開催されたメイク講座への参加から始まり、数々の単発講座やオンライン講座を受講しました。

現在は「AIと対話で切り開く視覚障害者の新しい働き方講座」で、プロフェッショナルとして自立して働く仲間たちから大きな刺激を受けている行田さん。

素晴らしい仲間との出会いを経て、「自身のこれまでの経験や企画力を活かして、障害のある人が働きやすい基盤をつくっていきたい」と、現在も自分に合ったキャリアのあり方について模索し続けています。

職場で培ってきた経験、ダイバーシティ業務で得た視点、そして自身が視覚障害と向き合う中で感じてきた課題。そのすべてが、行田さんにとって次の一歩を考える大切な材料になっています。

視覚障害があっても推し活を諦めない、初めてのライブ参加

ライブや音楽を楽しむ推し活をイメージした音符のイラスト

見え方の変化に向き合いながら、自ら動き続ける行田さんのバイタリティ。

その源泉になっているのが、日常の生きがいである「推し活」です。

小学校の頃からずっと大好きな「嵐」への情熱は、視覚障害が進行してからも変わることはありませんでした。

先日、ライブに参加する機会があったそうです。それは見えにくさが進行してから初めてのライブであり、「どれくらい見えるかな」と不安を抱えながらも、思い切って参加することにしました。

会場までは、別日で当選したお母様と一緒に向かい、会場内では事前にスタッフの方にお願いして席まで案内してもらい、いざ開演のときを迎えました。

ステージの様子やモニターの映像は見えない状態でしたが、そこで行田さんは、現場だからこその五感を体験します。

あちこちにスピーカーがあるから、誰がどこにいるのか、耳でもわかりません。彼らが今何をしているのかも全然わからず、長年大好きだったからこそ、見えない悔しさや悲しさは当然ありました。でも、現場にいると、音や声、そして振動を、本当に全身で浴びることができたんです。孤独感はまったくなく、すごく不思議な体験でした。

見えないことで受け取れない情報は確かにある。それでも、現場に足を運んだからこそ感じられる熱、音、振動、空気がありました。

ライブ配信にも音声ガイドを。視覚障害者が楽しめるエンタメの未来

ライブ配信のバリアフリー案を思いつく場面を表す電球のイラスト

しかし一方で、ライブの最終日に自宅のテレビに繋いで家族と視聴した「配信ライブ」では、現場での体験とはまったく異なる感情を抱いたといいます。

配信だと、いくら生の素晴らしい音であっても、どうしても平面的な「音の情報」だけになってしまうんです。光の演出やメンバーの細かな動きも見えないため、あの現場で感じた熱狂とは違って、その日は「孤独感」がすごく強くありました。

せっかくの大好きなライブなのに、画面の向こう側の熱気から自分だけが取り残されてしまうような寂しさ。

しかし、ここで終わらないのが行田さんです。

この体験をきっかけに、かつて数々の企画をゼロから形にしてきた彼女ならではの、エンタメの未来に向けた視点が生まれました。

最近の映画館だと、アプリを使って音声ガイドを聴きながら楽しめる仕組みがありますよね。もしライブの配信でも、片方の耳のイヤホンから「今、誰がどういう状況で、どんな演出になっているか」をリアルタイムで解説してくれるような副音声システムがあれば、誰でも楽しめるんじゃないかなと思いました。簡単ではないかもしれないけれど、そういうバリアフリーがもっと広がってほしいです。

行田さんが見つけたのは、映画館のような音声ガイドの仕組みをライブ配信にも広げ、リアルタイムでの解説という副音声を通じて、誰もが一緒に楽しめる環境を形にすることでした。

ここにも、行田さんの企画力が表れています。自分が感じた困りごとを、ただ個人の不便として終わらせるのではなく、「どうすれば、もっと多くの人が楽しめる仕組みにできるか」と考える。その視点は、仕事で培ってきた経験ともつながっています。

仕事も好きなことも、自分らしい方法で諦めない

光を見つけたイメージの星のイラスト

行田さんの推し活は、嵐だけに留まりません。

大ファンである俳優の志尊淳さんの年1回のイベントには、ガイドヘルパーさんの力を借りて駆けつけ、最近では、timeleszのライブにも見事当選したばかり。

仕事でもプライベートでも、壁にぶつかりながらも、試行錯誤を止めない行田さん。

最後に、読者へ一番伝えたいメッセージを伺いました。

もともと好きだったものも、障害になってから好きになったものもあります。でも、「視覚障害があるから行けない、できない」と絶対に諦めたくありません。手続きは大変だし、時には悲しい思いをすることもありますが、諦めずに一歩踏み出すことで得られる経験は、全部これからの自分の学びになります。仕事もプライベートも同じで、自分の「好き」を信じて、これからも突き進んでいきたいです。

笑顔で力強く語る行田さんの等身大の姿は、環境の変化を受け止めながら、自分の「好き」に向かって進む強さを、私たちに教えてくれています。

周囲との丁寧なすり合わせを重ねながら、自分の可能性を伝える対話の場をつくる。

そして、自分の大好きなもののために、勇気をもって一歩を踏み出してみる。

行田さんの歩みは、視覚障害がある人だけでなく、働き方や生き方に迷うすべての人にとって、「自分らしい方法で諦めない」ためのヒントになるのではないでしょうか。

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With Blindでは視覚障害者向け、そしてその周囲の人向けにオンラインスクールを提供しています。

オンラインスクールWith Blind – 視覚障害があっても学びをあきらめないために

 

そして、視覚障害者を含むメンバーで「見えても、見えなくても」をコンセプトに日常や視覚障がいに関する記事を書いています。

その中でも「見える人へ」の記事はぜひ多くの方に読んでいただきたい記事になるので、多くの方に届く協力をよろしくお願いします!

この記事を書いた人

普段は映画・ドラマのコラムやライフスタイル系の記事を中心に執筆しているWebライターです。
執筆活動を通じて培った「人の心情や背景を丁寧に読み解く力」を大切にしています。
本メディアでは、環境や制約に悩む視覚障害者の方々が、自分の強みを再発見し、自分らしいキャリアを切り拓くきっかけとなるようなコンテンツをお届けします。

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