ALIVE × With Blind|2026年5月~8月
2026年5月から8月19日まで、With Blindは「ALIVE」に参加しました。社会課題を提示する「答申先」としての参加です。テーマは、視覚障害のある人の働き方でした。
この記事でお伝えすること
- 4チームが、どこで立ち止まったのか
- 当事者や上司へのヒアリングで、何が変わったのか
- なぜ、4つの提案を採択しなかったのか
- 参加者とWith Blindに、何が残ったのか
参加者は、日本を代表する大企業の皆さんです。
各社で、将来のリーダーとして期待されている方々でもあります。
理解力が高く、行動力もあるメンバーでした。仕事と研修を並行しながら、何度も集まりました。当事者、上司、人事、異動希望先などへ話を聞きました。簡単な試作品までつくったチームもありました。
それでも、視覚障害のある人の就労課題は、簡単には見えてきませんでした。
制度を調べても、職場の空気までは分かりません。事例を読んでも、本人と上司の遠慮までは見えません。
この3か月は、その「見えにくさ」と向き合う時間になりました。
ALIVEとは
ALIVEは、越境学習型の次世代リーダー育成プログラムです。
企業から集まった参加者が、会社の枠を越えてチームをつくります。そして、自治体やNPOなどが抱える実際の社会課題に挑みます。
決められた正解はありません。参加者が問いを立てます。異なる企業文化を持つ仲間と話し合います。答申先から厳しい評価を受けることもあります。
提案だけでなく、その過程も学びになります。
Session 1|テーマを知る
答申先が課題と期待を伝えます。異なる企業の参加者がチームをつくります。
Session 2|課題を掘り下げる
調査やヒアリングを進めます。何が本当の課題なのかを探ります。
Session 3|中間提案を伝える
課題と解決策を発表します。答申先やアドバイザーから率直な評価を受けます。
Session 4|最終提案を届ける
12分間で最終提案を発表します。実現可能性と期待感の両面から評価されます。
なぜ、これほど提案づくりが難しかったのか
ALIVEは、社会課題を自由に考えるアイデアコンテストではありません。
最終的に「採択」となれば、答申先が提案を実行します。
そのため、面白さだけでは足りません。誰が動くのか。費用はいくらか。協力先はいるか。続けられるか。そこまで説明する必要があります。
一方、参加者にとっては、本業と並行して取り組む研修です。視覚障害のある人と働いた経験がない方もいました。異なる会社から集まるため、チーム内の前提もそろっていません。
つまり、約3か月で次の4つを同時に進める必要がありました。
- 視覚障害のある人の暮らしと仕事を知る。
- 表面の困りごとではなく、根本課題を見つける。
- 異なる企業のメンバーで、一つの案にまとめる。
- With Blindが実行できる事業へ落とし込む。
この4つの間を行き来したことが、今回の3か月のドラマでした。
With Blindが提示したテーマ
このテーマには、目指す社会だけでなく、期限と人数も設定しました。
以下は、テーマ設定のスライドに掲載した原文です。
「ALIVEで取り組むテーマ」スライド原文
ビジョン
視覚障害のある挑戦者が、主体的に学び、多様な選択肢の中から自ら望む働き方を選び、実現できることが当たり前の社会への変容を目指す
マイルストーン
2029年までに、3000人の視覚障害者が自ら望む働き方を選択できるWith Blindの仕組みを作る
背景
就業者の29.4%以上があん摩マッサージ指圧行に集中しているが、伝統的職業だけでは生計維持が難しくなっている
大学進学者も増加傾向にあり、伝統的職業以外の選択肢を増やして行く必要がある
視覚障害者の就業人口約2万人のうち、15%に当たる先駆的に行動する3,000人が、自ら望む働き方を実現できれば、その実践が周囲に波及し、社会変革の足がかりになる。
※上記はスライドの原文です。「あん摩マッサージ指圧行」は、一般に「あん摩マッサージ指圧業」と表記されます。
3,000人という数字は、単なる事業規模ではありません。
説明資料では、視覚障害のある就業者を約2万人としています。その15%に当たる3,000人が先に行動する。そこで生まれた実践が、周囲の人や企業へ広がっていく。そうした社会変化の起点として設定した数字です。
だからこそ、4チームには、一人を支えるだけで終わらない提案を求めました。
テーマの背景となった「5つの壁」
仕事があるだけでは、十分ではありません。
仕事を任されること。成長できること。次の役割を選べること。そのすべてが大切です。
With Blindは、社会参加を難しくする課題を「5つの壁」として伝えました。
情報の壁
相談先はあっても、教育、生活、就労の窓口が分かれています。必要な情報を一か所で得にくく、教育機関と就労支援機関の連携にも課題があります。たとえば、使える制度を本人や家族が一つずつ調べ、複数の窓口へ確認しなければならないことがあります。学びの壁
点字や拡大文字の教材は、一般の教材と同じようには手に入りません。教える側の専門性にも差があります。学校外で学べる講座や先生も限られます。学びたい気持ちがあっても、教材と指導者が見つからず、挑戦する前に選択肢が狭まることがあります。生活の壁
電車やバスの減便に加え、同行援護のガイドや歩行訓練の担い手も不足しています。移動できなければ、通学、通勤、研修、交流の機会にも参加できません。外出の壁は、生活だけの問題ではありません。経験や人との接点を減らし、将来の選択にも影響します。職業選択の壁
With Blindの説明資料では、視覚障害のある就業者の29.4%が、伝統的職業であるあん摩マッサージ指圧業に従事している状況を紹介しました。事務職や専門職など、ほかの仕事を目指す人はまだ多くありません。本人の能力ではなく、「視覚障害があるなら、この仕事」という周囲の思い込みが、進路や求人の選択肢を狭めることがあります。働き続けるための壁
就職後も、合理的配慮、職場のICT、定着支援、キャリア研修などの課題が残ります。説明資料では、職場のICTに課題を感じる視覚障害のある人が84%というデータも紹介しました。障害のある人の8割が昇進に関心を持つ一方、9割以上が管理的職業に就いていないというデータもあります。「雇う」だけでなく、任せ、育てる仕組みが必要です。5つの壁は、別々に存在するわけではありません。
情報へ届きにくいと、学びの機会を逃します。学びや外出の経験が少ないと、職業の選択肢も狭くなります。就職できても、ICTや配慮の壁があれば、仕事を任されにくくなります。
今回のテーマは、この連鎖をどこから、どのように変えるかという問いでもありました。
今回、既存事業の延長だけを求めたわけではありません。
3,000人の行動が、社会へ広がる仕組みを考えてほしい。
これが、4チームへ渡した難しい問いでした。
3か月の歩み|アイデアが現場の提案へ変わるまで
5月から6月|「良さそうな案」から始まった
序盤には、多くの案が出ました。
情報サイト。ロールモデルの紹介。共創イベント。ものづくり。企業研修。どれも前向きな案でした。
しかし、「良さそうな案」と「現実を変える案」は同じではありません。
誰の、どの場面を変えるのか。誰が費用を負担するのか。誰が運営するのか。With Blindが担う意味は何か。
最初の案では、そこまで答えられませんでした。
視覚障害のある人をイベントへ招く案もありました。
交流することには意味があります。ただし、参加者や「お客さん」のままでは、職場で仕事を任される状況は変わりません。
この違いが、最初の大きなつまずきでした。
7月10日|質問会で、現実的な問いが増えた
7月10日には、With Blindへの質問会を開きました。
参加者からは、次のような質問が続きました。
- 企業が導入するメリットは何か。
- 人事の負担を増やさずに実施できるか。
- イベントを一度きりで終わらせない方法はあるか。
- 当事者と企業、どちらの思い込みを変えるのか。
- 誰が費用を負担するのか。
- With Blindの人員で、本当に3,000人へ広げられるのか。
With Blindの課題も、率直に伝えました。
企業へ直接営業しても、簡単には届きません。実績の伝え方も十分ではありません。人事は忙しく、視覚障害という限られたテーマだけに多くの時間を割けません。
「社会的に良い」だけでは、企業は動きません。
現場の負担を減らすこと。組織の成果につながること。導入後も続けられること。
参加者は、ここから事業としての現実にも向き合い始めました。
7月16日|中間発表で突きつけられた厳しい評価
中間発表は、各チーム12分でした。
評価には、快晴、曇り、雨、雷雨のカードが使われました。
快晴は、そのまま採択できる水準です。雷雨は、方向性から考え直す必要があるという評価です。
この日、厳しい評価を受けたチームが複数ありました。全評価者から「雷雨」とされた提案もありました。
課題の捉え方は良くても、解決策がアイデアのままでした。数字はあっても、根拠がありません。50人から500人、そして3,000人へ広げる道筋も見えませんでした。
プレゼンが早口になり、内容が十分に届かなかったチームもありました。時間内に具体策まで説明できなかったチームもありました。
With Blindは、次の問いを投げかけました。
もし、視覚障害のある人が自分の部下になったら。
その人が成果を出せなければ、自分の責任になるとしたら。
何を不安に感じ、何をするでしょうか。
「支援する人」ではなく、「同じチームで成果を出す人」として考えてもらうための問いでした。
この日を境に、各チームの動きが変わりました。
中間発表後|やっと、職場の場面が見えてきた
参加者は、実際に働く視覚障害のある人へ話を聞きました。
上司や人事にも確認しました。異動を希望する部署へ提案を持ち込んだチームもありました。
そこで、制度だけでは分からない場面が見えてきました。
- 上司は、何をどこまで任せてよいか分からない。
- 障害について尋ねることを、差別やハラスメントと受け取られないか心配している。
- 本人も、できることや必要な配慮を言葉にしにくい。
- 互いに遠慮するうちに、挑戦できる仕事が減っていく。
- 異動したくても、希望部署との接点がない。
- 希望部署が受け入れに前向きでも、OJTの体制が整っていない。
- 本人が考える強みと、上司が見ている強みが一致しない。
ある当事者は、自分の課題を「コミュニケーション」と捉えていました。
一方、上司は、記憶力や周囲を察する力を強みとして見ていました。AIを使う業務への適性も感じていました。
しかし、その期待が本人へ十分に伝わっていませんでした。
本人、上司、希望部署が、それぞれ別の情報を持っていました。誰も悪くありません。それでも、対話がつながらなければ、次の行動は生まれません。
ここで初めて、抽象的だった「見えない壁」が、職場の具体的な場面になりました。
8月6日|雑談から生まれた、対話支援の発想
8月6日には、チームメンバーとWith Blindが1対1で話しました。
会話は、チョコレートケーキの話から始まりました。
仕事と関係のない雑談です。しかし、互いの背景を知ると、話しやすさが変わります。
上司は、部下の行動が障害の特性によるものか、その人の性格によるものか、判断できないことがあります。
切り分けは簡単ではありません。心理的安全性があれば、本人に確認できます。一緒に改善策も考えられます。
知識がないから、何を聞けばよいか分からない。聞くこと自体を怖いと感じる上司もいます。
問題は、知識だけではないかもしれません。対話を始めるきっかけが必要です。
AIが間に入り、確認する内容を整理できないでしょうか。
この対話から、職場の1on1を支えるAIの案が生まれました。
AIが答えを決めるのではありません。本人と上司が話すための論点を整理します。
最終発表まで、残された時間は多くありませんでした。
後の振り返りでは、「この着想が2か月前に生まれていれば、企業での検証まで進められたかもしれない」という声もありました。
最終発表直前|時間とチームづくりの難しさ
中間発表から最終発表までは、約1か月でした。
その間には夏休みもありました。実質的に、約3週間で提案を組み直す必要がありました。
最終発表の約2週間前まで、方向性がまとまらなかったチームもありました。
意見が対立し、議論が進まない。盛り込みたい視点が増え、提案が複雑になる。調査は増えても、誰が何を実行するのか決まらない。
明確なリーダーを置かず、全員が納得する結論を探したチームもありました。
同じ言葉を使っていても、企業が違えば意味が違います。「実現可能性」「支援」「共創」という言葉にも、受け止め方の差がありました。
少人数の質問会や雑談が、行き詰まりを動かしました。
資料を増やすだけでは、解決しませんでした。本音を話せる関係ができたとき、ようやく提案がまとまり始めました。
4チームは、どこでつまずき、どう変わったのか
ここからは、各チームの変化を順に紹介します。
中間発表の案。そこで受けた指摘。方向転換のきっかけ。最終プレゼンの案。そして、最後に残った問いです。
同じチームの案とは思えないほど、大きく変わったチームもあります。その変化の間に、現場へのヒアリングと厳しい議論がありました。
チームA|「社外で実績をつくる」から「今の職場で話せる」へ
中間発表|共創プロジェクト
視覚障害のある人と視覚障害のない人が、一つのチームをつくります。AIや社会課題など、第三者にも価値が伝わるテーマへ挑みます。
成果を出せば、「一緒に働くのは大変そう」という企業の見方を変えられる。本人の実績と自信にもなる。まず大学や研究室と始め、企業へ広げる構想でした。
最終プレゼン|AI「MAI(仮)」
上司と本人の間にAIが入り、認識のずれを整理します。サーベイや会話から、やりがい、不安、必要な配慮を把握します。
AIは、1on1で話すテーマと次の行動を提案します。会議で発言が少ない場合には、資料の事前共有、画面拡大、読み上げ環境などを確認するデモも示しました。
中間発表で問われたこと
なぜ、今の職場ではなく社外で実績をつくる必要があるのか。成果を誰が評価し、昇進や異動へどう結びつけるのか。大学や企業が協力する根拠はあるのか。3,000人へ広がる仕組みも見えませんでした。発表が早口になり、具体策まで届かなかった点も課題でした。
方向転換のきっかけ
8月6日の個別対話で、上司が「何を聞いてよいか分からない」という問題が浮かびました。障害の特性なのか、本人の仕事の進め方なのか。判断できず、確認することも怖い。その迷いを整理する道具として、AIを使う発想が生まれました。
最終プレゼンでのフィードバック
評価されたのは、課題の捉え方です。上司と本人が互いに配慮しすぎ、会話できなくなる。その状況を具体的に示しました。デモまで用意した行動力も、高く評価されました。
一方、次の点が問われました。
- 約300万円という費用の内訳は妥当か。
- 1年目の無償提供を、誰が支えるのか。
- 3,000人へ届ける営業計画はあるか。
- 一度使っただけで終わらないか。
- 人間同士の対話を、AIへ預けすぎないか。
見えてきたこと
上司の遠慮も、本人の遠慮も、仕事の機会を減らします。対話を始める仕組みには価値があります。
最終的に残った課題
初期費用として約300万円の案が示されました。しかし、見積もりの根拠は十分ではありませんでした。個人情報の扱い、AIに任せる範囲、上司が使い続ける理由、400人規模へ広げる営業体制も未確定でした。
チームB|「3つの施策」から「一人の異動を動かす伴走」へ
中間発表|見えない壁を壊す「3本の矢」
1つ目は、With BlindのAI講座や「耳だけヨガ」などを、視覚障害のない人にも開く案です。
2つ目は、視覚に頼らない商品やサービスを一緒につくる案です。3つ目は、企業向けのダイバーシティ研修です。
接点をつくり、共創し、最後に企業へ実装する流れを考えていました。
最終プレゼン|一人から始めるキャリア伴走
対象を、実際に異動を希望する一人の社員へ絞りました。
支援は4段階です。強みと課題を整理する。障害と本人の個性を開示する。希望部署との接点をつくる。必要なスキルを学ぶ。With Blindが第三者として関係者をつなぎます。
中間発表で問われたこと
3つの施策は、それぞれ既存の取り組みに近いものでした。なぜWith Blindが実施するのか。どの施策が職場の「見えない壁」へ直接届くのか。3,000人へ広がる根拠もありませんでした。評価者全員から、方向性を含めて考え直すよう求められました。
方向転換のきっかけ
抽象的な「視覚障害者」ではなく、実在する一人へ話を聞きました。本人、現上司、異動希望先へ順番に提案を示しました。希望部署は前向きでしたが、OJTの体制がありませんでした。仕事に必要な専門スキルも足りませんでした。
本人は、自分の課題をコミュニケーションだと考えていました。一方、上司は、記憶力や周囲を察する力を強みとして見ていました。AIを使う業務への期待もありました。しかし、その期待が本人へ十分に伝わっていませんでした。
最終プレゼンでのフィードバック
一人の実在する社員へ焦点を当てた点は、評価されました。本人、上司、希望部署の反応まで確かめています。「第三者だから引き出せる情報がある」という、With Blindの役割も伝わりました。
一方、次の点が問われました。
- 人事の正式な合意を得られるか。
- 中心となる協力者が動けない場合、誰が代わるのか。
- 一人目の支援を、二人目、三人目へどう広げるのか。
- 3,000人へ広げる仕組みをつくれるか。
- 支援の費用を、誰が負担するのか。
見えてきたこと
本人の努力だけでは、異動は進みません。上司、希望部署、人事をつなぐ人が必要です。
最終的に残った課題
本人、上司、希望部署は、おおむね前向きでした。しかし、人事の正式な合意は得られていませんでした。誰が費用を負担するのか。2人目、3人目を誰が支えるのか。特定の協力者が動けない場合の代替案も不足していました。
チームC|「情報を探す場」から「できる条件を残す挑戦ラボ」へ
中間発表|属性から経験を探せるコミュニティ
見え方、障害を負った時期、年代、職種、使っているツールなどを登録します。自分に近い人の経験を探し、直接質問できる場をつくります。
既存サービスを使って小さく始め、50人、500人、3,000人へ広げる計画でした。
最終プレゼン|業務実装と訓練を行う「挑戦ラボ」
企業の仕事を工程ごとに分けます。「そのままできる」「AIやICTがあればできる」「人の補助が必要」に分類します。
成功と失敗の条件を再現モデルとして残します。そのモデルを教材にし、次の挑戦者を育てます。企業は、採用前に仕事の成立条件を確認できます。
中間発表で問われたこと
コミュニティは、開設後に人が来なくなることがあります。不適切な投稿への対応や、管理する人の負担も必要です。会員が増えることと、望む働き方が実現することも同じではありません。50人から500人、3,000人へ増える数字にも根拠がありませんでした。当事者向けの情報だけで、人事や上司をどう動かすのかという指摘もありました。
方向転換のきっかけ
企業や就労現場の事例を調べる中で、課題は「情報がない」だけではなく、「仕事を任せる条件が分からない」ことだと見えてきました。前例がないため、企業はできないと判断します。当事者も将来像を描けません。そこで、経験談ではなく、仕事の設計図を残す方向へ変わりました。
業務を分解する考え方は、視覚障害者雇用だけに役立つものではありません。仕事の属人化を減らし、新人教育や多様な働き方にも活用できます。この企業側の利点も示されました。
最終プレゼンでのフィードバック
当事者と企業に「接点がない」という根本課題は、丁寧に捉えられていました。業務分解が、採用だけでなく企業の業務整理にも役立つ。この視点も評価されました。
一方、次の点が問われました。
- 提案を実証する企業は決まっているか。
- 企業が成功や失敗を外部へ共有する利点は何か。
- 業務分解を、誰が担当するのか。
- モデルの品質を、誰が管理するのか。
- 課題の理解に見合う実装案と熱量が、十分に伝わっているか。
見えてきたこと
「できる・できない」ではなく、「どの条件ならできるか」を残すことが、職域を広げます。
最終的に残った課題
初年度に複数企業で実証する計画でしたが、協力先の確約はありませんでした。業務分解を誰が担うのか。企業が自社事例を外へ出す利点は何か。費用と長期的な収益モデルも未確定でした。
チームD|「事例を見せる」から「仕事を一緒に試す」へ
中間発表|ロールモデルと新しい職域
働き方、生き方、社歴、苦労を詳しく載せた「仕事事典」をつくります。テレワークなど、希望する働き方からロールモデルを探します。
さらに、長期のキャリア伴走と、ウェブサイトなどを当事者が検証する「アクセシビリティ検証士」という新職種も提案しました。
最終プレゼン|脱出ゲーム型の仕事体験
営業事務やデータ分析などの業務を、ミッション形式で体験します。参加者はチームで課題を解きます。
企業の採用担当者は、履歴書だけでは分からない考え方、対応力、協働の様子を観察します。当事者も、説明ではなく行動で自分の力を示します。
ヒアリングでは、社内にロールモデルがいない全盲の管理職の話がありました。20代の当事者からは、コールセンター以外の仕事を想像できなかったという声もありました。就職活動で、多くの企業へ配慮事項を送り、わずかな返答から応募先を探した例も聞きました。
中間発表で問われたこと
ロールモデルを見せるだけで、採用や異動は進むのか。似た情報サイトはすでにあります。アクセシビリティ検証にも参入企業があります。単発の検証業務を、安定した雇用へ変える道筋もありませんでした。With Blindが担う必然性を示せませんでした。登録者数や就職者数の試算も、根拠が弱いと評価されました。
方向転換のきっかけ
企業と当事者の双方が、互いの力を知らないことへ焦点を移しました。事例を読むだけでなく、同じ課題へ一緒に取り組めば、能力も必要な配慮も具体的に見える。そこから、ゲーム型の仕事体験が生まれました。
最終プレゼンでのフィードバック
ゲームという切り口は、分かりやすいものでした。参加者が前向きに挑戦できる点も評価されました。企業が、履歴書だけでは分からない姿を見られる点にも可能性がありました。
一方、次の点が問われました。
- 実際に、どのような仕事の課題を解くのか。
- 誰が、何を基準に評価するのか。
- 企業が参加する利点は何か。
- どのように収益を得るのか。
- 終了後、採用や職場定着へどうつなげるのか。
設計が曖昧なままでは、「面白い体験」で終わるという指摘でした。
見えてきたこと
説明を聞くだけでなく、一緒に仕事へ挑む場には、互いの思い込みを変える力があります。
最終的に残った課題
実際に行うゲームの内容は、まだ固まっていませんでした。誰が評価するのか。企業が参加する利点は何か。終了後に採用や職場定着へどうつなげるのか。運営費も含め、実施の設計が不足していました。
最終プレゼン|結果は「採択なし」
最終プレゼンでは、各チームが12分で発表しました。
提案の解像度は、中間発表より大きく上がっていました。ヒアリングの生の声も入りました。試作品や具体的な支援手順も示されました。
それでも、With Blindは4つの提案をすべて不採用としました。
不採用は、「価値がない」という意味ではありません。
ALIVEでの採択は、その提案を実行するという約束です。
費用、人員、協力先、責任者、継続方法まで確認する必要があります。
今回は、8月19日の時点で、その約束ができる状態には届きませんでした。
4チームに共通していたのは、課題の理解が深まった一方で、実装の詰めが間に合わなかったことです。
- 概算費用はあっても、見積もりの根拠が弱い。
- 実施主体や責任者が決まっていない。
- 実証に協力する企業の確約がない。
- 一度使って終わらない仕組みが不足している。
- 数人から3,000人へ広げる道筋が不明確。
- 人間同士の対話をAIへ任せる範囲が整理されていない。
「一部採択」とする選択肢もありました。
しかし、実行する部分を決められないまま採択することはできません。
参加者が本気だったからこそ、曖昧な答えは返せませんでした。
結果の直後に語られた本音
最終日の振り返りでは、きれいな感想だけではない言葉が出ました。
「本気で採択を目指したから、悔しい」
全員が納得する案を出しました。採択されるつもりで発表しました。それだけ本気でした。
「協力してくれた人に申し訳ない」
結果を待っているヒアリング協力者がいました。採択に至らず、申し訳ない気持ちになりました。
「途中は、早く終わってほしいと思った」
厳しい評価を受け、答えが見えない時期がありました。それでも、最後まで考え続けました。
「自社のことさえ知らなかった」
障害者雇用の担当部署は知っていました。しかし、実情を知りませんでした。今回初めて、当事者や担当者へ話を聞きました。
異なる企業のメンバーが集まったからこその難しさもありました。
同じ言葉を使っていても、会社が違うと意味が違いました。認識を合わせることに時間がかかりました。
自分が施策を受ける側だったらどう思うか。そう考えると、急に課題が難しくなりました。
一つも採択できなかったことは、率直に悔しく感じています。With Blindの伝え方にも、改善できる点がありました。
採択はありませんでした。
しかし、何も残らなかった3か月ではありませんでした。
この3か月で、何が学びにつながったのか
資料よりも、現場の声が提案を変えた
中間発表までは、提案が抽象的でした。当事者、上司、人事、希望部署へ話を聞いた後、職場の場面が見える提案へ変わりました。善意と遠慮が、機会を減らすことがある
上司は傷つけたくない。本人は迷惑をかけたくない。その結果、必要な対話がなくなり、任される仕事も減ることがあります。課題の理解と、事業の実行は別だった
課題を深く理解しても、費用、担当者、協力先、継続方法がなければ実行できません。社会課題を事業へ変える難しさが見えました。早い段階で試すことが必要だった
最終発表の直前に良い着想が生まれたチームもありました。もっと早く小さく試せていれば、提案の確かさは変わった可能性があります。異なる企業文化をつなぐことも、リーダーの仕事だった
同じ言葉でも意味が違いました。意見が割れても、相手の背景を聞き、共通の言葉をつくる必要がありました。With Blindにも宿題が残った
テーマの渡し方や、フィードバックの時期を見直す必要があります。参加者が早く現場へ踏み出せる支援も必要です。視覚障害のある人の状況を、外から想像するのは簡単ではありません。
それでも、直接話を聞くことはできます。
自分の職場に置き換えて考えることもできます。
今回の参加者は、その難しさから逃げませんでした。
大企業で次のリーダーとして期待される皆さんが、本気で考えました。厳しい評価を受けても動きました。悔しさも持ち帰りました。
その経験は、すぐに数字では表せません。
それでも、職場を変える一歩になったと考えています。
ALIVEが終わり、With Blindの宿題が始まる
参加者へ、難しい問いを投げかけた3か月でした。
最後に大きな宿題を受け取ったのは、With Blindです。
対話を支える仕組み。本人と職場をつなぐ伴走。仕事を「できる条件」へ分解する方法。企業と当事者が一緒に挑む場。
4つの提案には、大切な種があります。
誰が担うのか。費用をどうするのか。どのように続けるのか。
これからは、With Blindが考え、形にしていきます。
ALIVEは、8月19日で一区切りとなりました。
視覚障害のある人が、望む働き方を選べる社会へ。
With Blindの挑戦は、これからも続きます。
参加した4チームの皆さんに、心より感謝申し上げます。
運営や支援に関わった皆さんにも感謝いたします。
そして、ヒアリングに協力してくださった皆さん。大切な経験をお話しいただき、本当にありがとうございました。

