全盲の情報工学博士に聞く、視覚障害者が職場で”自分だけの強み”を活かすための「課題解決力」と「対話術」

全盲の情報工学博士に聞く、視覚障害者が職場で"自分だけの強み"を活かすための「課題解決力」と「対話術」(手を取り合うイラスト) 仕事・キャリア
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職場で周囲との認識のズレに悩み、「障害があるからこの業務はできない」とキャリアを諦めそうになっていませんか?

視覚障害を持ちながら一般企業で働くうえで、壁を乗り越える鍵となるのは、精神論ではなく、現実的に壁を解消する「課題解決力」と、周囲を巻き込む「対話術」です。

今回お話を伺ったのは、現在も大手メーカーで音響技術やアクセシビリティの研究開発に携わる傍ら、一般社団法人WithBlindの講師としても活動している鈴木淳也(すずき・じゅんや)さん。

ユニバーサルデザインの世界標準策定にも貢献してきた、ものづくりのプロフェッショナルです。

鈴木さんが30年の会社員生活で実践している「職場での工夫」や「コミュニケーション」のあり方には、諦めそうになる環境の中で「自分の強みの見つけ方」を学び、自分らしい「働き方」や「キャリア」を切り拓くための再現性のあるヒントが、具体的に示されていました。

本記事では、職場での課題解決を対話でおこない、現実的な工夫でステップアップしていくためのアプローチを、鈴木さんのエピソードから紐解きます。

趣味のカメラを手に持ち、優しく微笑む鈴木淳也さん
▲今回お話を伺った、鈴木淳也さん。
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カメラの音声読み上げ機能が生まれたきっかけ

カメラのイラスト

鈴木さんのこれまでのキャリアを象徴するのが、自らの発信が起点となり、製品の仕様そのものを大きく変えることになった「デジタルカメラのメニュー音声読み上げ機能」のエピソードです。

今から約30年ほど前、デジタルカメラの液晶画面に表示される設定メニューは視覚情報のみに頼るものが一般的でした。

また、「視覚障害者がカメラを趣味にしている」という事実自体が、カメラ開発部門の社員にとって想定外であり、当事者のニーズそのものが社内で全く認知されていないことが最大の壁だったのです。

鈴木さんは、最初から「音声機能を付けてほしい」と直接要望したわけではありません。

きっかけは、社内向けのビデオレターで「視覚障害があっても、趣味としてカメラを楽しんでいる」と自分の日常を伝えたことでした。

この「ただ自分の趣味を紹介しただけ」の発信が、思わぬ展開を生みます。

動画を見たカメラ担当の社員が「視覚障害のある人にも使いやすいよう、音声でメニューを読み上げる機能を付けたい」という提案を自主的に持ちかけてきたのです。

愛用のカメラを構えて笑顔を見せる鈴木淳也さん
▲趣味のカメラを楽しむ鈴木さん。
この発信がのちの機能搭載へと繋がった。

そして、担当社員の熱意によって開発が進み、数年後には全機種への標準搭載が実現しました。

鈴木さんは、人と対話するときに大切にしている姿勢をこう語ります。

コミュニケーションで大切なのは、たくさん話すことではなく、相手を理解しようとする姿勢です。相手を言い負かすのではなく、相手にとって何がよいのかを考えながら向き合う。その積み重ねが、自分自身の理解を深めることにもつながります。

鈴木さんが「自分はこう楽しんでいる」と発信したからこそ、受け手である開発者側も「もっと良くしたい」というエンジニア精神で応えることができました。

このエピソードからわかるのは、配慮や改善を求める前に、自分がどのように働き、何に困り、何を楽しんでいるのかを周囲に伝えることの大切さです。

等身大の自己開示があるからこそ、周囲も「何を変えればよいのか」「どのように協力できるのか」を具体的に考えやすくなります。

「見えない人にテレビは必要ない」という思い込みをどう変えたのか

テレビのイラスト

鈴木さんが、キャリア講座を通じて受講生たちに一番伝えたいテーマは、具体的な「課題を解決する能力」です。

大手メーカーに入社して間もない1990年代半ば、鈴木さんは「視覚障害の方も使えるビデオデッキ」の企画会議に参加しました。

そこで周囲の社員から「視覚障害の人はテレビを見るんですか? ラジオで聞けばいいのでは?」という疑問を投げかけられます。

同僚の中には、「見えない人はテレビを見ないのではないか」と考える人もいました。

しかし、鈴木さんにとってテレビは、家族や友人と一緒に楽しむ身近な存在でもありました。

このとき、鈴木さんは相手の言葉を「悪気のない思い込み」だと冷静に受け止めて、感情論で反論するのではなく、「家族や友人に説明してもらいながら、みんなで一緒にテレビを楽しむ日常がある」という事実を、丁寧に説明したのです。

鈴木さんが自身の日常をベースに対話を行ったことで、周囲の社員たちの誤解は解消され、全員が当事者のニーズを正しく理解した状態で、ユニバーサルデザインのビデオデッキ開発プロジェクトを正式にスタートさせることができました。

この場面で鈴木さんが行ったのは、相手の発言を責めることではなく、相手が知らなかった事実を補うことでした。

「見えない人も、家族や友人と一緒にテレビを楽しむ」という日常を具体的に伝えたことで、周囲の認識が変わり、製品開発の前提も変わっていきました。

アクセシビリティや製品開発での具体的な工夫

リモコンのイラスト

周囲の誤解を解消した先には、具体的なものづくりの壁や、アクセシビリティが担保されていない過酷な開発環境が待っていました。

たとえば、テレビのリモコンにある「5」のボタンの突点を、業界全体のルールにすることを目指したときのことです。

「ただ突点をつければいい」という単純なものではなく、触ってすぐにわかる位置の特定、数字の読みやすさを邪魔しない配置、そして長年使用しても摩耗しない耐久性など、数々の制約をクリアしなければなりませんでした。

鈴木さんはこの経験をこう振り返っています。

当事者としての視点と、作る側のプロとしての制約、その両方をきちんと見られる人間にならなければいけないと、身をもって実感しました

またあるときは、プログラム開発で使用するツールが、画面読み上げソフトに対応しておらず、仕事が進められない窮地に陥りました。

周囲の社員はマウス操作で画面を見ながらスムーズに進められるため、その深刻さがなかなか職場に共感してもらえなかったのです。

そこで鈴木さんは、設定がテキストデータとして書き出されている点に着目し、自分で読み上げ用のツールを開発しました。

こうして、画面が見えなくても業務に必要な操作ができる環境を整えていったのです。

鈴木さんの姿勢から見えてくるのは、単に「諦めないこと」ではありません。

まず何が壁になっているのかを整理し、周囲に相談しながら情報を集め、自分で使える方法を作り出していくこと。

その具体的な課題解決の積み重ねが、職場で自分の強みを活かす土台になっていきます。

音響技術に活きた全盲ならではの感覚

対話をイメージした吹き出しのイラスト

全盲の鈴木さんは普段、周りの状況を「音の響き(反響)」によって細かく把握しています。

初めて入る会議室でも一瞬で「広い部屋だな」「ここは狭い部屋だな」と判断できるほどの認知能力を持ち、この圧倒的な聴覚情報を活かして、立体音響の研究に力を注ぎました。

しかし、当時の一般的な音響技術では、鈴木さんにとって「大切な音の要素がごっそり抜け落ちている」と感じられたのです。

技術者として「音の情報量が欠落している」と確信して周囲に伝えても、「十分いい音に聴こえるよ」と言われ、そのこだわりをなかなか理解してもらえませんでした。

鈴木さんは、音の響きや反響を細かく捉える感覚を、単なる個人的な感覚で終わらせませんでした。

その違和感を技術的な課題として捉え直し、周囲に伝え続けることで、立体音響の研究開発につなげていきました。

ここに、障害による特性を仕事上の強みに変えていくヒントがあります。

現在のWith Blindでのキャリア支援

自分の強みを見つけた瞬間をイメージした芽が出たイラスト

鈴木さんは現在、オンラインスクールWith Blindで、視覚障害のある方のキャリア形成や働き方を支える講座にも関わっています。

過去に実施した「AIと対話で切り拓く、視覚障害者の新しい働き方講座」では、AIやアクセシブルなツールを活用しながら、仕事上の課題を整理し、自分らしい働き方を考える機会を提供しました。

実際、講座で最初は「会社で活躍できない」と悩んでいた受講生たちが、仲間の悩みを聞くことで「自分だけじゃない」と孤独から解放され、時には「AIとの対話」を活用して課題を客観的に見つめながら、現実的な解決能力を育んでいます。

それまで「できないこと」ばかりに向いていた意識が、「自分だからこそできる強み」へとシフトしていく。

その変化を感じ取れる瞬間が、鈴木さんにとっての大きな喜びだといいます。

自分の苦労や、やり続けた結果として道が開けた経験を伝えることで、受講生のみなさんに頑張ってみようかなと思ってもらえたら嬉しいですね

講座の詳細はこちら:
https://school.with-blind.com/ai-career-visuallyimpaired202603/

鈴木さんのプロフィールはこちら:
https://school.with-blind.com/course/

読者へのメッセージ

星のイラスト

目が見える・見えないに関わらず、本当に人とつながり、自分の居場所を作っていくために大切な姿勢が、鈴木さんの30年の歩みには凝縮されていました。

職場で「自分にはできない」と感じたとき、いきなり大きな改善を求める必要はありません。

まずは、自分がどこで困っているのか、どのような情報があれば仕事を進めやすいのかを、身近な人に具体的に伝えてみること。

そして、今ある環境の中で使えるツールや工夫を一つずつ探してみること。

その小さな積み重ねが、自分らしい働き方を切り拓く一歩になるのではないでしょうか。

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With Blindでは視覚障害者向け、そしてその周囲の人向けにオンラインスクールを提供しています。

オンラインスクールWith Blind – 視覚障害があっても学びをあきらめないために

 

そして、視覚障害者を含むメンバーで「見えても、見えなくても」をコンセプトに日常や視覚障がいに関する記事を書いています。

その中でも「見える人へ」の記事はぜひ多くの方に読んでいただきたい記事になるので、多くの方に届く協力をよろしくお願いします!

この記事を書いた人

普段は映画・ドラマのコラムやライフスタイル系の記事を中心に執筆しているWebライターです。
執筆活動を通じて培った「人の心情や背景を丁寧に読み解く力」を大切にしています。
本メディアでは、環境や制約に悩む視覚障害者の方々が、自分の強みを再発見し、自分らしいキャリアを切り拓くきっかけとなるようなコンテンツをお届けします。

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