面接は、本来、その人が仕事で何をできるのかを確かめる場です。
ところが、最初から「できないこと」だけを聞かれたらどうでしょう。実績も強みも話せないまま、採用できない理由ばかりが集まっていきます。
舞台は、視覚障害のある社員が多数を占める架空の会社「リバース社」。物流センターの業務改善職を採用する面接です。
この記事で描く問題
見える応募者だけが、職歴や実績より先に「できないこと」を説明させられます。
伝えたいこと:採用面接では、障害や不得意を不採用理由として集めるのではなく、まず職務に必要な能力を全候補者に同じ基準で確認する。その後で、仕事に必要な調整を本人と相談します。
面接の最初の質問は「何ができませんか」だった
宮下は、物流倉庫の待ち時間を三割減らした経験を持っています。その実績を生かしたいと思い、リバース社の業務改善職へ応募しました。
面接室には、採用担当の小野と、現場責任者の佐伯が座っています。小野は宮下の履歴書を開きました。しかし、職歴には触れませんでした。
小野「宮下さんは見える方ですね。まず、見えることでできない作業を、思いつく限り説明してください」
宮下「できない作業より先に、応募した仕事についてお話ししてもよいでしょうか。前職では、入荷待ちの時間を三割減らしました」
小野「実績は後で伺います。音声だけの端末は使えますか。暗い倉庫を一人で歩けますか。点字の在庫表は読めますか」
質問は続きました。どれも、今回募集している業務改善職の中心業務ではありません。
宮下は答えるたびに、自分が採用できない人間であることを証明させられているように感じました。
宮下「音声端末は研修があれば使えます。点字表は、表計算データに変換できれば確認できます。ただ、この仕事で毎日必要な作業はどれでしょうか」
小野「見える社員を採用した前例が少ないので、問題になりそうなことを先に全部知りたいんです」
小野に悪意はありません。「採用後に困らないため」という説明でした。
しかし実際には、宮下だけが能力を示す前に、不得意を並べるよう求められていました。
「安全の確認」が、不採用理由探しになっていた
二十分が過ぎても、宮下は準備してきた改善事例を説明できませんでした。
そこで、同席していた佐伯が質問しました。
佐伯「小野さん。この職種の選考で、全員に確認する三つの能力は何ですか」
小野「データ分析、現場への聞き取り、改善案の実行です」
佐伯「その三つを、宮下さんにはまだ一度も聞いていません。見える人にだけ、募集職種とは別の作業を並べています」
小野は言葉に詰まりました。
佐伯は、宮下の履歴書にある「待ち時間三割削減」を指しました。
佐伯「宮下さん。その改善では、何を調べ、誰と話し、どう変えたのですか」
宮下「入荷時刻と検品開始時刻を二週間記録しました。現場の六人に聞くと、荷物の到着を音で知らせる仕組みがなく、確認が遅れていました。そこで振動通知と共有画面を組み合わせました」
佐伯「結果はどうなりましたか」
宮下「平均待ち時間が三割減りました。音だけ、画面だけにせず、複数の受け取り方を用意したので、全員が確認しやすくなりました」
ここで初めて、面接は宮下の能力を見る時間になりました。
問題は「できないことを聞くこと」だけではない
仕事に必要な条件を確認すること自体は大切です。危険を放置する必要もありません。
問題は、能力を評価する前に、特定の応募者だけへ不得意の説明を求めることです。質問の順番と範囲が違えば、同じ基準で選考したことにはなりません。
| リバース社の面接 | 起きていた問題 | 見直す方法 |
|---|---|---|
| 見える人だけ「できないこと」から聞く | 能力を示す時間が減る | 全員へ同じ職務質問をする |
| 担当外の作業まで列挙する | 架空の危険が不採用理由になる | 本当に必須の業務を求人票で示す |
| 配慮の必要性を能力不足とみなす | 環境の問題が本人の評価へ変わる | 能力評価と環境調整を分ける |
現実の職場では、障害のある応募者が「何ができませんか」「通勤は大丈夫ですか」「周囲にどれだけ迷惑がかかりますか」と、仕事の実績より先に聞かれることがあります。
立場を逆転すると、その質問が応募者を理解するためではなく、不採用にする理由を集める質問になり得ることが見えてきます。
小野が面接をやり直した
小野「申し訳ありません。私は見えることを採用上の危険として見て、宮下さんの仕事を聞いていませんでした。ここからは、ほかの応募者と同じ質問で面接をやり直します」
宮下「ありがとうございます。まず能力と実績を見てください。そのうえで、採用後に必要な環境を一緒に確認したいです」
小野は、全候補者に使っている評価票を取り出しました。
小野「この職種では、データ分析、現場との調整、改善案の実行を評価します。宮下さんの経験を、それぞれ具体的に教えてください」
面接の最後に、必要な環境を確認しました。
小野「仕事を進めるために、採用前に確認しておきたい環境はありますか」
宮下「在庫表は画面でも読めるデータ形式にしてください。暗い倉庫へ入る時は照明を使います。それ以外は、実際の業務を見て相談したいです」
佐伯「これなら、宮下さんだけ基準を変えず、能力と必要な環境を別々に確認できます」
リバース社はこの面接をきっかけに、評価票を見直しました。「障害について自由に質問する欄」をなくし、全候補者に共通する職務質問と、本人が必要な調整を伝える欄を分けました。
明日から採用現場でできること
- 必須業務を具体的にする
「社内業務全般」ではなく、採用する職種で本当に必要な作業を言葉にします。 - 能力に関する質問を全候補者でそろえる
実績、判断、問題解決の経験を同じ順番と基準で確認します。 - 配慮は「できますか」ではなく「どうすればできますか」と聞く
本人の希望を聞き、環境や手順の調整として考えます。
宮下「面接で知ってほしかったのは、見える私の弱点だけではありません。仕事をどう改善してきたかです」
不得意を聞くことと、その人を不得意だけで判断することは違います。
まず、仕事に必要な力を見る。そのうえで、力を発揮できる条件を本人と考える。採用の入口を公平にするための基本です。
登場人物
- 宮下(業務改善職の応募者・見える人)
- 小野(採用担当・全盲)
- 佐伯(物流センターの現場責任者・弱視)
参考にした資料
※リバース社、人物、会話は創作です。実在の企業や人物を示すものではありません。
「立場を逆転して考える」シリーズ
いつもの「当たり前」を反対側から眺めると、見えにくかった壁が見えてきます。


