現在は一般企業で障害者雇用として働きながら、今後のキャリアについて模索されている方々がたくさんいらっしゃいます。しかし、働く意欲があるにもかかわらず、十分な仕事を任せてもらえないという現実にも直面しています。
視覚障害がある人の就労では、「就職できるか」だけでなく、「就職後にどのような仕事を任され、どう活躍できるか」も大きな課題です。
そんな中、田中さんは一般社団法人With Blindが運営するオンラインスクールでAIを学びながら、新しい可能性を探し始めました。
今回は、視覚障害との向き合い方や仕事への思い、そしてこれから挑戦したいことについてお話を伺いました。
この記事でわかること
- 網膜色素変性症と診断された田中さんが、仕事とどう向き合ってきたか
- ネイリストから事務職へ転身する中で感じた不安と学び
- 障害者雇用で働く中で見えてきた課題
- 視覚障害のある人にとってAIがどのような可能性を持つのか
ネイリストとして働いていた日々

まずは、田中さんが視覚障害と向き合う前の歩みをご紹介します。
- お客様と向き合う仕事のやりがい
- ネイリストとして過ごした日々
- 今も活きている接客経験
お客様と向き合う仕事のやりがい
田中さんはもともとアパレル業界で働いていました。
接客が好きで、人と関わることにやりがいを感じていたそうです。そんな中、「何か手に職をつけたい」という思いからネイルスクールへ通い、資格を取得。30歳頃からネイリストとして働き始めました。
ネイルの仕事は技術職というイメージがありますが、田中さんにとってはお客様とのコミュニケーションも同じくらい大切なものでした。
「どんなデザインが好きですか?」
「普段はどんな服を着ていますか?」
そんな会話を重ねながら、一緒にネイルを作り上げていく時間が好きだったといいます。
実際に取材でお話を伺っていても、田中さんは自然と相手の話を引き出してくれる方でした。人との距離を縮めるのが上手で、相手の話を丁寧に聞く姿勢が印象的でした。
今も活きている接客経験
ネイリスト時代に培った経験は、現在も大きな財産になっています。
相手の話を聞く力。
相手の気持ちを想像する力。
自然に打ち解ける力。
後に田中さんがD&Iや人事分野に関心を持つようになる背景には、こうした「人への興味」があるように感じました。
37歳で告げられた網膜色素変性症という診断

次に、視覚障害がわかった当時のことを伺いました。
- 診断のきっかけ
- 病気を知ったときの思い
- ネイリストを続けるか悩んだ日々
診断のきっかけ
転機となったのは、施術後のネイル写真でした。
当時は完成したネイルを撮影し、ブログへ掲載していました。ある日、写真を拡大して見た際、自分ではきれいに塗れていると思っていた部分にムラがあることに気づいたそうです。
最初は疲れのせいだと思いました。
しかし違和感が続いたため眼科を受診した結果、網膜色素変性症と診断されました。
現在の見え方について、田中さんは「五円玉の穴から周りを見ているような感じ」と表現します。
視力はコンタクト装用で両目0.7程度ありますが、視野が狭くなっているため、人混みや初めての場所では大きな負担を感じるそうです。
病気を知ったときの思い
病名を聞いた当初は、正直よくわからなかったといいます。
しかし帰宅後、自分で調べる中で進行性の病気であることを知りました。
「これから見えなくなっていくかもしれない」
不安がなかったわけではありません。
それでも田中さんが最初に考えたのは、
「じゃあ次はどんな仕事ができるんだろう」
ということでした。
網膜色素変性症は、目の奥にある網膜に異常が生じ、徐々に視機能が低下していく進行性の難病です。
主な症状には、暗い場所で見えにくくなる夜盲や、視野が少しずつ狭くなる視野狭窄、視力低下などがあります。
現在も遺伝子治療や再生医療などの研究は進められていますが、病状や原因によって選択肢は異なり、すべての人が受けられる根本的な治療法が確立しているわけではありません。
症状の進行や見え方には個人差が大きく、同じ病気でも生活や仕事への影響は人それぞれです。
日本には約3万人の当事者がいるといわれていますが、身近に同じ病気の人と出会う機会は多くありません。そのため、将来への不安や悩みを一人で抱え込みやすい病気でもあります。
▼網膜色素変性症について詳しくはこちら

ネイリストを続けるか悩んだ日々
診断後も約1年間はネイリストとして働き続けました。
しかし少しずつ細かな作業が難しくなっていきます。
お客様に満足してもらいたい。
自分自身も納得できる仕事をしたい。
そう考えた結果、退職を決意しました。
退職を考えるようになった頃、田中さんは視覚障害のある人たちがどのような仕事をしているのか、自分なりに調べ始めました。
すると、事務職やパソコンを使った仕事に就いている方が多いことを知ります。
しかし当時の田中さんは、ネイリストとして働いてきたため、パソコン操作にはほとんど自信がありませんでした。
「これから先、パソコンを使った仕事が本当にできるのだろうか」
退職そのものよりも、新しい働き方へ踏み出すことへの不安の方が大きかったと振り返ります。
職業訓練で身につけたパソコンと音声読み上げの力

退職後、田中さんは新しい挑戦を始めました。
- 日本視覚障害者職能開発センターでの学び
- 音声読み上げソフトとの出会い
- 自信につながった2年間
日本視覚障害者職能開発センターでの学び
田中さんが通ったのは、東京都新宿区にある日本視覚障害者職能開発センターです。
同センターは、視覚障害のある方の職業訓練や就労支援を行う専門機関です。
全国的にも数が少なく、東京に2か所、大阪に1か所程度しかない貴重な存在として知られています。
田中さんは約2年間にわたり訓練を受けました。
最初はパソコンの電源を入れるところからのスタートだったそうです。
音声読み上げソフトとの出会い
訓練の中で大きな存在になったのが、パソコン画面の文字や状況を音声で読み上げる「スクリーンリーダー」と呼ばれるソフトでした。
スクリーンリーダーとは、パソコン画面上の文字やボタン、メニューなどの情報を音声で読み上げるソフトです。
視覚障害のある人は、この音声を聞きながらキーボード操作を行い、メールや文書作成、インターネット利用などを行うことができます。
キーボード操作だけでWordやExcel、メールを扱えるようになるまで繰り返し訓練を重ねました。
中途で視覚障害になった方の中には音声読み上げに抵抗を感じる人もいます。
しかし田中さんは積極的に学びました。
「今ではないと不安になるくらい慣れています」
そう笑いながら話してくださいました。
自信につながった2年間
訓練を重ねる中で、一部の作業では晴眼者よりも速く作業できるようになったそうです。
「見えなくなったら終わりではない」
「工夫や環境によってできることは増やせる」
その実感が、田中さんの大きな自信につながりました。
障害者雇用で働く中で感じた現実

現在、田中さんは一般企業の内部監査部門で働いています。
しかし、そこで新たな課題にも直面しました。
- 働きたいのに仕事がない
- 障害者雇用の課題
- D&Iへの関心
働きたいのに仕事がない
職業訓練で学んだスキルを活かしたい。
そう思って入社したものの、実際には十分な研修やOJTはなく、与えられる仕事も単発的なものが中心でした。
仕事が終わると数日間やることがない状態になることもあります。
「何のために会社へ行っているんだろうと思うことがあります」
その言葉には、働きたいという気持ちがあるからこその苦しさがにじんでいました。
田中さんは、上司や周囲に対して何度も「もっと仕事を担当したい」「できることを増やしたい」と相談してきました。
しかし職場全体も忙しく、視覚障害のある社員へどのような仕事を任せればよいのか分からないまま時間が過ぎてしまうことも少なくなかったそうです。
働く意欲はある。スキルも身につけてきた。
それでも仕事につながらない現実に、もどかしさを感じる日々が続いていました。
障害者雇用の課題
もちろん職場に悪意があるわけではありません。
ただ、視覚障害のある社員にどのような仕事を任せればよいのかわからないまま時間が過ぎてしまうケースは少なくないと感じています。
「採用して終わりではなく、その後どう活躍してもらうかまで考えてほしい」
田中さんはそう話します。
D&Iへの関心
こうした経験から、田中さんはD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)や人事分野に関心を持つようになりました。
D&Iとは、多様な人材を受け入れるだけでなく、一人ひとりが能力を発揮できる環境をつくるという考え方です。
「私と同じ思いをする人を減らしたいんです」
その言葉には、実体験から生まれた強い思いが込められていました。
With BlindのAI講座で見えてきた新しい可能性

現在、田中さんが学んでいるのがWith Blindのオンラインスクールです。
- With Blindとの出会い
- AIを学ぶ理由
- 仲間とのつながり
With Blindとの出会い
一般社団法人With Blindは、視覚障害のある方の学びや働き方、外出や生活を支援する団体です。
オンラインスクール、同行援護、居宅介護などを通じて、一人ひとりの社会参加を支えています。
田中さんは、日本視覚障害者職能開発センター時代の知人から紹介を受けて受講を始めました。
▼オンラインスクールWith Blind
AIを学ぶ理由
AIに関心を持った理由は、将来への備えでした。
職場でもAIという言葉を耳にする機会が増え、自分もAIを活用できるようになれば仕事の幅を広げられるのではないかと考えるようになったそうです。
また、今後さらに視力が低下した場合でも、AIは視覚を補うツールとして役立つ可能性があります。
さらに田中さんの中には、もう一つの思いがありました。
それは、見えにくくなったことで一度は離れた美容分野に、別の形で関われないだろうかということです。
AIによる情報整理や文章作成、画像認識技術などの進化を知る中で、「美容に関する情報発信やサポートなど、新しい関わり方があるかもしれない」と感じるようになりました。
AIは単なる便利なツールではなく、自分の可能性を広げてくれる存在として映っているそうです。
仲間とのつながり
講座ではAIへの質問方法(プロンプト)や情報整理、文章作成などを学んでいます。
特に印象に残っているのは、受講生同士で活用方法を共有する時間だそうです。
同じ悩みを抱える人と出会い、情報交換ができることも大きな価値だと感じています。
現在は履歴書や職務経歴書の作成にもAIを活用しており、転職活動にも役立てています。
自分らしく働くために

最後に、読者へのメッセージを伺いました。
田中さんは、
「できる限り外へ出て、人とつながってほしい」
と話します。
職能開発センターやWith Blindで出会った仲間とのつながりが、自分自身を支えてくれたからです。
また企業に対しては、
「採用して終わりにしないでほしい」
と伝えたいそうです。
障害だけを見るのではなく、その人自身を見てほしい。
それが本当の意味でのインクルージョンにつながると考えています。
そして、自分らしく働くことについては、
「やりたいことを、とことん突き詰めること」
と話してくれました。
「目のせいにしたくないんです」
その言葉がとても印象的でした。
まとめ
37歳で網膜色素変性症と診断され、ネイリストの仕事を離れた田中さん。
その後、日本視覚障害者職能開発センターで学び、新しいスキルを身につけ、障害者雇用での就職を実現しました。
現在は仕事を十分に任せてもらえないという課題に直面しながらも、その経験をD&Iや人事分野への関心へとつなげています。
さらにWith BlindでAIを学びながら、新しい可能性も広げています。
「目が見えないことを理由に行動を制限したくない」
その言葉には、これからも挑戦を続けていこうとする田中さんの強い意志が込められていました。
やりたいことを諦めるのではなく、方法を探し続ける。
その姿勢は、多くの人に勇気を与えてくれるはずです。
<視覚障害があり、仕事や学び直し、AI活用について相談したい方へ>
With Blindでは、視覚障害のある方に向けたオンライン講座や個別相談を行っています。
- 「自分にもAIが使えるのか知りたい」
- 「仕事の幅を広げたい」
- 「学び直しを始めたい」
という方は、ぜひお気軽にご相談ください。
※画像はイメージです。

