投票用紙の文字が見えにくい。候補者の名前を正確に書けるか心配。投票所に着いてから、どこへ進めばよいか分からない。
選挙で意思を伝えたいと思っても、投票するまでにいくつもの心配が重なることがあります。でも、見えない・見えにくいことを理由に、投票を諦める必要はありません。 点字で投票する方法も、係員に代筆してもらう方法もあり、期日前投票でも利用できます。
With Blindのよーすけは、点字投票をよく利用しています。最近は、以前ほど待たされず、円滑に点字投票ができるようになったと感じています。投票を支える自治体職員の皆さんのおかげで、利便性が向上したことを嬉しく思っています。
候補者名簿も点字で用意してくれるところが多く、名前を確かめながら投票用紙に間違いなく記載できる。その点も、よーすけが助かっていることです。
この記事では、よーすけの体験と点字投票の歴史、日本で今使える方法を紹介したうえで、米国・ドイツ・フランス・オーストラリア・ニュージーランド・英国ウェールズの事例を比較します。自分の投票の準備にも、より参加しやすい選挙を考えるためにも役立ててください。
制度情報の確認日:2026年9月14日。投票できる場所・期間や具体的な支援は、選挙ごとに住所地の選挙管理委員会へ確認してください。

- 1.まず知っておきたい、投票の三つの方法
- 2.点字投票は、最初から当たり前に認められていたわけではない
- 3.よーすけが感じる、点字投票の使いやすさの変化
- 4.点字投票の当日は、どう進む?
- 5.点字を使わない人は、代理投票を利用できる
- 6.弱視の人は、拡大や記入位置の補助も相談する
- 7.投票先を考える情報も、自分に合う形で受け取る
- 8.期日前投票を使って、行きやすい日を選ぶ
- 9.自宅でできる郵便投票は、誰でも使える制度ではない
- 10.投票所で必要な支援を、短いメモにしておく
- 11.海外6か国・地域に学ぶ、視覚障害者の投票
- 12.日本で生かしたい、五つの視点
- 13.マイナンバーカードで、自宅から投票できる未来へ
- 14.よくある疑問
- 自分の一票を、自分の意思で届けよう
1.まず知っておきたい、投票の三つの方法
視覚障害があるから全員が同じ方法で投票するわけではありません。点字を使う人、拡大や補助具があれば文字を書ける人、代筆が必要な人など、状況はさまざまです。
| 方法 | 内容 | 受付で伝えること |
|---|---|---|
| 点字投票 | 点字用の投票用紙に点字で記載する | 「点字投票を希望します」 |
| 自分で文字を書く | 自分に合う見え方や補助具で記入する | 「拡大鏡や記入位置の補助具を使いたいです」 |
| 代理投票 | 本人の意思に従い、投票所の係員が代筆する | 「自分で記載できないため、代理投票をお願いします」 |
点字投票や代理投票は、投票日当日だけの制度ではありません。期日前投票でも利用できます。補助具の種類や配置は投票所によって異なるため、必要なものがある場合は事前に尋ねておくと安心です。千葉市「選挙Q&A」
「点字が使えないから投票できない」「点字を習ってからでないと行けない」ということはありません。また、いつも点字を使う人が、体調や状況に応じて別の方法を相談することもできます。
大切なのは、本人が投票先を決められることと、その意思を正確に投票へ反映できることです。誰かの手を借りたから、一票の価値が小さくなるわけではありません。
2.点字投票は、最初から当たり前に認められていたわけではない
今では投票の方法として案内される点字ですが、かつては点字による投票が当然に有効とされていたわけではありません。視覚障害のある人たちが、自分の意思を点字で投票へ表せるよう求めてきた歴史があります。
毎日新聞社の「点字毎日の歴史」は、各地の当事者の活動や報道を経て、1925年の普通選挙法で点字投票が認められたことを紹介しています。その後、1928年の総選挙では5,428票が点字で投票されました。毎日新聞社「点字毎日の歴史」
ここで気を付けたいのは、「制度として認められた年」と「国政選挙で実施された年」を分けることです。「1925年に最初の総選挙で点字投票が行われた」とまとめると、時期を取り違えてしまいます。
| 年 | 点字投票に関わる主な出来事 |
|---|---|
| 1925年 | 普通選挙法で点字投票が認められる |
| 1926年 | 地方議会選挙でも公認され、浜松市の市会議員選挙で実施 |
| 1927年 | 最初の普通選挙に向け、模擬点字投票などの準備が行われる |
| 1928年 | 普通選挙制度下の最初の総選挙で、5,428票の点字投票 |
1926年の地方議会選挙への広がりは、新潟県立図書館の解説に記されています。1927年の模擬投票は、毎日新聞社の年表でも確認できます。新潟県立図書館「新潟県の点字投票ことはじめ」、毎日新聞社「点字と点字毎日の主要年表」
なお、当時の普通選挙は、現在のように男女が同じ条件で参加できる制度ではありませんでした。1925年の選挙権拡大は25歳以上の男性が対象でした。点字投票が認められたことは大きな前進ですが、その時点で、今ある参政権がすべて実現したわけではありません。
制度を変えようと声を上げた人がいて、実際に使えるよう準備した人がいた。その積み重ねの上に、今日の点字投票があります。

3.よーすけが感じる、点字投票の使いやすさの変化
点字投票の制度が存在していても、投票所で準備に時間がかかったり、どのように対応するか確認が続いたりすると、利用する側の負担になります。
よーすけは点字投票をよく利用する中で、最近はあまり待たされることなく進められるようになったと感じています。必要なものを用意し、手順を把握して対応してくれる職員の皆さんへの感謝があります。
この体験は、全国のすべての投票所の対応時間を示す調査ではありません。それでも、制度の改善が本人にどう届くかを考えるうえで、大切な実感です。
候補者名簿が点字で用意されていれば、名前を自分で確かめられます。記憶だけに頼らず、候補者の表記を確認して書けることは、落ち着いて投票する助けになります。「誰かに名前を教えてもらえる」だけでなく、「必要なときに自分で読み返せる」ことにも意味があります。
内閣府の障害者白書でも、点字による候補者名簿等の備え付け、点字器の用意、選挙公報の音声読み上げ対応データなどの取組が紹介されています。内閣府「令和7年版障害者白書・情報アクセシビリティ」
「今回は分かりやすかった」「名簿を自分で確認できて助かった」。そうした感想も、よい対応を続けてもらう手がかりになります。困った点だけでなく、役立った工夫を選挙管理委員会へ伝えることもできます。
4.点字投票の当日は、どう進む?
投票所に着いたら、受付で点字投票を希望することを伝えます。点字用の投票用紙や点字器などの案内を受け、記載する場所へ進みます。候補者の点字一覧が必要な場合は、その場で申し出ましょう。
投票用紙が複数ある選挙では、どの選挙の用紙なのかを一枚ずつ確認することが大切です。候補者名を書くのか、政党名などを書くのかは、選挙の種類によって違います。いつもの感覚で進めず、今回の用紙の説明を聞いてください。
| 段階 | 確認すると安心なこと |
|---|---|
| 受付 | 点字投票を希望すること、誘導の要否 |
| 用紙の受け取り | 何の選挙の用紙か、記載する内容 |
| 記載前 | 点字器の扱い、候補者等の点字一覧 |
| 記載後 | 用紙の扱い、投票箱の場所 |
| 複数の投票 | 次の用紙が何の選挙・審査か |
千葉市では、点字投票を希望する人に点字用の投票用紙や点字器を用意し、期日前投票や一定の不在者投票でも利用できると案内しています。千葉市「体が不自由な方のための選挙制度」
使い慣れた点字器を持参したい場合や、点字用紙の扱いに不安がある場合は、選挙管理委員会へ確認しておきましょう。点字の具体的な書き方や投票の記載方法を、この記事の図だけで再現するのではなく、当日の正式な案内に従います。
最高裁判所裁判官の国民審査が同時に行われる場合も、選挙の候補者を選ぶ用紙と同じではありません。点字投票での方法を含め、どの用紙に何を記載するかを係員に確認してください。
5.点字を使わない人は、代理投票を利用できる
代理投票は、本人に代わって投票先を決めてもらう制度ではありません。本人が決めた内容を、投票所の係員が代筆する制度です。
自分で投票用紙に記載することが難しい場合は、受付などで「代理投票をお願いします」と申し出ます。本人の意思を確認し、決められた手順に沿って補助が行われます。
家族やガイドが、そのまま投票用紙へ代筆できるわけではありません。 投票所での代理投票は、担当する係員が行います。家族が書いたほうが早いと思っても、通常の書類の代筆とは分けて考えてください。千葉市「代理投票制度」
投票先を口頭で伝えにくい場合は、どのように本人の意思を示せるか事前に相談できます。周囲に聞こえる声で名前を言うことに不安があるなら、それも伝えてください。本人が使いやすい伝達方法と、投票の秘密を守る方法を一緒に確認します。
必要な支援を説明するメモと、投票先を伝えるための情報は、分けて扱うと分かりやすくなります。例えば「代理投票を希望」「小さな声で説明してほしい」という支援の希望を、受付へ示すメモにしておけます。
With Blindの視覚障害者の書類記入について考えた記事でも、自筆の難しさを取り上げています。選挙には選挙の手順がありますが、「文字を書けるか」と「自分の考えがあるか」は別だという点は、日常の手続きにも共通します。
6.弱視の人は、拡大や記入位置の補助も相談する
普段は文字を書けても、投票所の照明や用紙の位置によって書きにくいことがあります。少し明るくしてほしい、近くで候補者名を確認したい、記入欄の位置を知りたい。そうした希望を伝えて構いません。
自治体によっては、拡大鏡、老眼鏡、投票用紙の記名補助具などを用意しています。千葉市も、こうした備品を案内しています。ただし、すべての会場に同じものが同じ条件であるとは限りません。
自分の拡大鏡などを使いたい場合は、使い方を含めて会場に相談します。照明の反射で見えないときは、単に明るくするより、用紙を置く位置や体の向きの調整が役立つ場合もあります。
「書けるはずだから自分で書かなければ」と無理をする必要はありません。その場の見え方や体調によって、代理投票の相談へ切り替えることも考えられます。方法を選ぶ基準は、我慢できるかどうかではなく、意思を正確に記載できるかどうかです。
7.投票先を考える情報も、自分に合う形で受け取る
投票用紙に書く方法だけが整っていても、候補者の情報が読めなければ、選びにくさは残ります。新聞のような選挙公報が届いても、小さな文字や複雑なレイアウトでは内容を追いにくいことがあります。
点字版、音声版、読み上げに対応したデータなどが提供される場合があります。どの形式が用意され、いつから、どう受け取れるかを、住所地の選挙管理委員会に尋ねてみましょう。点字図書館が情報提供に関わる地域もあります。
例えば豊島区では、点字版・音声版の選挙公報について、希望する人の申込みを案内しています。これは地域の具体例であり、全国共通で自動配送されるという意味ではありません。豊島区「点字版・音声版による選挙公報の配布申請」
候補者名簿と選挙公報も、役割を分けると分かりやすくなります。名簿は、誰が立候補しているかや名前の表記を確認するもの。公報などは、候補者の考えや訴えを読むための情報です。投票所で名前だけ読めれば、必要な情報が全部揃うわけではありません。
| 知りたいこと | 情報の入口 |
|---|---|
| 候補者の正確な名前 | 選挙管理委員会の候補者一覧、点字の名簿 |
| 政策や考え方 | 選挙公報、政見放送、候補者・政党の発信 |
| 投票の場所・期間 | 選挙管理委員会の公式案内、入場券 |
| 自分に合う支援 | 選挙管理委員会への問い合わせ |
読み上げや文字認識を使っても、候補者名、数字、文の順番が誤って伝わることがあります。特に画像だけの公報をAIで要約した場合は、原文の否定や条件を落としていないか注意が必要です。読める公的な資料を先に探し、疑問があれば確認する方法を取りたいですね。
8.期日前投票を使って、行きやすい日を選ぶ
投票日当日に仕事や用事などがある場合は、期日前投票を利用できます。点字投票や代理投票も相談できます。予定と支援の都合を合わせて、落ち着いて投票するための選択肢です。政府広報「あなたの意見を一票に」
期日前投票所は、当日の投票所と同じとは限りません。また、会場ごとに開設期間や時間が異なる場合があります。「去年行った場所だから」「夜まで開いていたから」と思い込まず、今回の選挙の案内を確認しましょう。
移動の援助が必要なら、投票所までの往復と、会場内の支援を分けて考えます。同行援護の利用を考える場合は、目的や時間を事業所と相談してください。会場に入った後、投票の代筆は係員が担当するため、ガイドと係員の役割も変わります。
初めての会場なら、建物名だけでなく、入口、階、受付の位置、近くの目印が分かると安心です。「駅に近い会場」でも、入口までの経路が分かりやすいとは限らないので、必要に応じて具体的に尋ねてください。
同行援護などの支援の全体像は、With Blindの支援制度・サービス6選でも紹介しています。投票を予定の一つとして組み込み、使える支援を確認してみましょう。
9.自宅でできる郵便投票は、誰でも使える制度ではない
外出が難しいとき、「視覚障害者手帳があれば郵便で投票できるのでは」と思うかもしれません。しかし、郵便等による不在者投票には、障害の種類や程度、要介護状態などの対象要件があります。
視覚障害があることだけで、全員が郵便投票の対象になるわけではありません。 まず郵便等による不在者投票の対象となるかを確認し、そのうえで自書が難しい人の代理記載制度の要件を確認します。千葉市「郵便等による不在者投票」
投票所で行う代理投票と、郵便投票での代理記載は、名称が似ていても手続きが違います。郵便の場合は事前の証明や代理記載人の届出などが必要となり、投票用紙の請求や返送にも時間がかかります。
外出が難しい、入院している、住所地から離れたところに滞在しているといった場合は、それぞれ利用できる不在者投票の方法が異なります。「今回は投票所に行けない」と分かった時点で、住所地の選挙管理委員会に相談してください。
ここは早めの確認が役立つところです。投票日前日に初めて尋ねると、必要な書類のやり取りに間に合わないことがあります。詳しい制度名が分からなくても、現在の状況と、投票したいという希望を伝えるところから始められます。
10.投票所で必要な支援を、短いメモにしておく
緊張すると、頼みたかったことをその場で思い出せない場合があります。支援の希望だけを書いたメモや、自治体の投票支援シートを用意しておく方法があります。
千葉市では投票支援シートを公開し、希望する支援を伝えられるようにしています。利用の仕方や備品の案内も掲載されています。千葉市「投票支援シート」
点字投票を希望します。記載場所までの案内をお願いします。候補者等の点字一覧を使いたいです。投票用紙が複数ある場合は、何の用紙か一枚ずつ説明してください。
点字を使わない人なら、次のように変えられます。
視覚障害があり、自分で投票用紙へ記載することが難しいため、代理投票を希望します。投票先の伝え方と確認方法を、周囲に聞こえにくい形で相談したいです。
この二つは本記事で作った文例です。公式の申請書ではありません。メモを用意することが、支援を受けるための必須条件という意味でもありません。
家族や支援者がメモを作る場合は、本人の希望を確認します。本人が言っていない支援を足したり、投票先を決めて記入したりせず、本人が選び、表明することを助けます。

11.海外6か国・地域に学ぶ、視覚障害者の投票
「投票を手伝ってもらえる」ことに加えて、「投票先を人に伝えず、自分で選び直せる」ことまで保障できるか。海外の取り組みを見ると、投票のしやすさを考える視点が広がります。
ここでは、選挙機関や政府が公表した制度・実践・調査を取り上げます。国の優劣を決めるランキングではありません。国全体の制度、地域での導入、少人数の試行は分けて読みましょう。
| 国・地域 | 注目する工夫 | 範囲・位置づけ |
|---|---|---|
| 米国・ロサンゼルス郡 | 音声と触覚操作を備えた投票端末 | 地域で導入。自宅のネット投票とは異なる |
| ドイツ | 紙に重ねる触覚テンプレートと音声等の説明 | 連邦議会・欧州議会選挙の案内。選挙に合う補助具が必要 |
| フランス | 候補者・メディアを含めた選挙情報のアクセシビリティ | 政府の実務ガイドと2026年の案内。全国一律の達成を意味しない |
| オーストラリア | 登録と投票を分ける電話投票 | 連邦選挙等の対象者向けサービス |
| ニュージーランド | 電話口述投票と本人が選ぶ支援者 | 2026年総選挙の公式案内。電話投票は登録が必要 |
| 英国・ウェールズ | 音声と触覚補助具を当事者と検証 | 2025年の13人による試行。全国導入の実績ではない |
米国|音声で聞き、触って選ぶ。ロサンゼルス郡の投票端末
米国のHAVA(2002年の選挙改革法)は、視覚に頼らない利用を含め、障害のある人にも秘密と自立を伴う投票機会を保障する考え方を掲げています。選挙支援委員会EACは、制度案内に加えて選挙職員向けの研修も公開しています。
根拠:EAC「EAC Empowers Voters with Disabilities」 / 選挙職員向けアクセシビリティ研修(英語)
具体例が、カリフォルニア州ロサンゼルス郡のBMD(投票用紙に選択を記録する端末)です。ヘッドホンの音量・読み上げ速度、操作パッド、文字サイズ、コントラストなどを調整できます。アクセシビリティ機能を共通の端末にまとめている点が特徴です。
同郡の2024年の機器説明では、端末はインターネットにつながず、紙の投票用紙を使う仕組みとされています。「電子機器を使う投票」と「自宅からインターネットで送信する投票」は別物です。
根拠:ロサンゼルス郡「Vote Center Accessibility」 / 2024年総選挙メディアキット・21ページ(PDF、英語)
音声、文字サイズ、コントラストを調整
タッチ画面だけでなく、操作パッドも選べる
ネットへの送信とは異なる仕組み
自宅の端末で投票用紙を読み、選択する「Accessible Vote by Mail」もあります。ただし、最後は印刷して郵送や投票センターへの持参等で返す方式です。読み上げで選べても、印刷・封入・返送を自分で進められるかは別に確かめる必要があります。
根拠:ロサンゼルス郡「Accessible Vote by Mail」(英語)
導入時には、候補者を読むところだけでなく、選択・確認・修正・投票完了まで、全盲・弱視の人が通して試せるかを評価したいところです。端末を置くことと、安心して使えることの間には、研修と運用があります。
ドイツ|紙の投票を、触覚と音声で使いやすくする
ドイツには、投票用紙に重ねて使う「Stimmzettelschablone」というテンプレートがあります。穴の位置を指で確かめ、選びたい欄に印を付けます。日本のように候補者名を点字で書く方法とは違い、紙の記入位置を触って分かるようにする工夫です。
連邦選挙管理官の案内では、地域の視覚障害者団体から無料で取り寄せられ、非会員も利用できます。用紙の右上にある穴や切り欠きは、テンプレートと向きを合わせる目印です。すべての投票用紙に共通の目印を付けるため、目印だけで補助具の利用者を特定できない設計になっています。
根拠:ドイツ連邦選挙管理官「Stimmzettelschablone」(2023年2月13日更新、ドイツ語)

2021年連邦議会選挙の公式案内は、連邦議会選挙では2002年、欧州議会選挙では2004年から全国で提供されてきた経緯を説明しています。補助具に加え、地域団体により点字・音声CD・DAISY・大活字の説明を用意し、投票所でも郵便投票でも使えるとしています。
根拠:ドイツ連邦選挙管理官「Barrierefreies Wählen」(2021年選挙の説明、ドイツ語)
穴の場所が分かるだけでは、そこが誰の欄かは分かりません。触覚の補助具と、候補者の並び順を確認できる情報をセットにすることが大切です。日本に応用するには、名前を書く方式との違いや、用紙の様式・法制度も検討する必要があります。
フランス|投票所に行く前の「情報を読める」を整える
フランスで学びたいのは、選挙の主催者だけでなく、候補者とメディアにもアクセシビリティの実務ガイドを用意している点です。政府の候補者向けガイドは、大きく読みやすい文字、十分なコントラスト、音声資料、点字、アクセシブルなウェブ資料などを扱っています。
紙で配る資料を、最初から利用しやすいデジタル形式でも公開するという考え方は、日本の選挙公報にも参考になります。「政策を読めること」を、投票日の支援と同じくらい重く扱う視点です。
根拠:フランス政府・候補者向け選挙アクセシビリティ実務ガイド(2022年3月、8~10ページ、PDF・フランス語)
2026年2月更新の政府案内でも、自治体選挙に向けた情報や、候補者が「読みやすく分かりやすい」FALC形式の公約を公開できる仕組みが紹介されています。ただし、文章がやさしいことと、スクリーンリーダーで読めることは別の条件です。両方を確かめる必要があります。
根拠:フランス政府「Tout savoir sur l’accessibilité des élections」(2026年2月25日更新、フランス語)
候補者や政党も、チラシの画像だけでなく、同じ内容のテキストや音声を早い時期から提供する。その運用まで含めて参加しやすい選挙を考えられます。今回確認した資料から、フランス全国で視覚障害者の自立投票が完成しているとまでは言えません。
オーストラリア|自宅からの電話投票で、移動と筆記の負担を減らす
オーストラリア選挙管理委員会AECは、連邦選挙等の投票期間に、全盲・弱視の有権者向けの電話投票を提供しています。まず本人情報を確認して登録し、登録番号とPINを用意。その後、改めて電話をかけ、氏名を伝えずに投票する二段階の流れです。
一人の職員が投票内容を記録し、別の職員が確認役を務め、記録内容を本人に読み返します。職員は選択内容を扱うため、誰にも内容を伝えない方式ではありませんが、投票時の匿名性と正確さを両立させようとする仕組みです。
根拠:AEC「Telephone voting」(2025年7月14日更新、英語)
- 登録本人情報を確認し、登録番号とPINを準備
- 別の電話で投票氏名の代わりに番号とPINを使う
- 記録を確かめる職員2人で記録・確認し、本人へ読み返す
自宅で投票する選択肢は、スマートフォンやネットに限りません。身近な電話も候補になります。一方、聴覚にも障害がある人、口頭で意思を伝えにくい人への方法を別に用意することも欠かせません。
ニュージーランド|電話投票と、本人が選ぶ支援を組み合わせる
2026年総選挙の公式案内は、視覚障害や身体障害によって自分で記入できない人に電話口述投票を案内しています。以前の選挙で利用した人も登録が必要です。また、投票所では友人・家族・選挙職員が読み上げや記入を支援できる一方、支援者が投票先を指図してはいけないことを明示しています。
根拠:ニュージーランド選挙管理委員会「Need help to vote?」(2026年総選挙の案内、英語)
日本の投票所での代理投票は、指定された係員が代筆します。海外で家族の記入支援が認められているからといって、日本でも同じようにできるわけではありません。学びたいのは、支援の選択肢と「決めるのは本人」という原則を一緒に伝える姿勢です。
英国・ウェールズ|「使えるか」を当事者と試して、課題も公表する
ウェールズ政府はRNIBなどと協力し、2025年2月、カーディフとレクサムで13人の視覚障害者と試行を行いました。音声を聞く三つの方法と、紙に重ねる二つの触覚補助具を組み合わせて検証しています。
参加者からは改善につながるという声とともに、職員研修、投票所の環境、使える補助具の周知などの課題が出ました。報告書は、少人数で支援団体を通して集めた参加者の結果を、視覚障害者全体の意見とみなせないことも説明しています。
根拠:ウェールズ政府「Accessible voting pilot report: audio and tactile voting devices」(2025年5月12日公表、英語)
「便利な機器が完成した」と結論づける前に、初めて使う人でも選択・修正できるかを試す。うまくいかなかった点を公表し、用紙や研修を直す。この改善の進め方そのものに学べます。
12.日本で生かしたい、五つの視点
事例からWith Blindとして考えたいことを整理すると、次の五つになります。以下は各国の制度を踏まえた本記事の考察・提案です。
点字・音声・テキストで、投票先を考える時間も確保する。
点字、拡大、代筆、音声などから本人が選べるようにする。
選んだ内容を確かめ、周囲に知られず修正できるかを見る。
機器の用意と、職員が使い方を説明できることをセットにする。
全盲・弱視など異なる見え方の人と試し、次の選挙へ反映する。
例えば、点字の候補者名簿が用意されていても、期日前投票の開始日に間に合わなければ、その日に投票したい人の選択肢は狭まります。浦安市の2026年1月更新の案内にも、点字の候補者一覧は「期日前投票の開始当初を除き」用意すると記されています。備品の有無に加え、いつから使えるかを伝えることが重要です。
根拠:浦安市「視覚に障がいのある方の投票」(2026年1月15日更新)
また、端末を独力で使えるようにすることと、人の支援を希望する人の選択を尊重することは、両立できます。自分で操作する方法を増やしながら、必要な支援も選べる。その両方を大切にしたいと思います。
13.マイナンバーカードで、自宅から投票できる未来へ
よーすけには、早くマイナンバーカードなどを使い、誰もが自宅から投票できる社会になればよいという思いがあります。使い慣れた端末で候補者の情報を読み、落ち着いて選択し、投票まで終えられたら。移動や付き添いの調整にかかる負担が減ることを期待しています。
ただし、これは将来への希望です。2026年9月時点で、日本の公職選挙に、誰でもマイナンバーカードを使って自宅からネット投票できる一般制度があるわけではありません。 つくば市では公職選挙への導入を目指す実証実験が行われていますが、企画案などへの実証の投票と、国政・地方選挙で候補者を選ぶ投票は区別する必要があります。つくば市「2万人規模のインターネット投票」
本人確認ができれば、すべてが解決するわけでもありません。誰が誰に投票したか分からない仕組み、他人から強制されずに選べる環境、不正な変更を防ぐこと、通信が止まったときの対応なども必要になります。国会でも、インターネット投票について課題の整理や調査研究が議論されています。衆議院・2026年3月5日総務委員会会議録
視覚障害のある人にとっては、読み上げ対応も最初から必要です。候補者一覧を読む、選択内容を確認する、修正する、投票が完了したと分かる。どこか一つでも使えなければ、最後は人に任せることになってしまいます。
自宅での投票が選べるようになっても、点字投票や投票所での支援が不要になるわけではありません。スマートフォンが得意な人も、点字のほうが安心な人もいます。新しい方法を増やすことで、本人の選択肢が広がる社会を期待したいですね。
14.よくある疑問
点字投票をしたいとき、前もって予約が必要ですか?
まず投票所の係員に希望を申し出る方法が案内されています。特別な機器や支援を希望する場合、初めてで手順が不安な場合は、事前に選挙管理委員会へ相談しておくと準備がしやすくなります。
点字の候補者名簿は、必ずどこにもありますか?
点字による名簿等の備え付けは進められています。よーすけも用意されていることが多いと感じていますが、会場や選挙ごとの状況は確認してください。必要なら、利用する期日前投票所も指定して尋ねると確実です。
家族に投票先を知られずに投票できますか?
本人の意思と投票の秘密は大切にされるべきものです。家族やガイドが同行する場合も、投票先を知らせる必要はありません。点字投票や代理投票で、どのように秘密に配慮して進められるか係員に相談できます。
投票所入場券をなくしたら、投票できませんか?
入場券をなくしたことだけで、直ちに投票できなくなるわけではありません。選挙人名簿への登録や本人確認など、当日の確認方法を住所地の選挙管理委員会に尋ねてください。手元の書類が読めないときも、早めに確認しておくと安心です。
支援してくれる人が、自分と違う候補者を支持していたら?
誰へ投票するかは本人が決めます。支援する人の役割は、情報を読めるようにしたり、移動を手伝ったりすることです。投票先を勧められて困ったら、その話と当日の支援を分け、必要に応じて係員へ直接相談してください。
自分の一票を、自分の意思で届けよう
選挙は、自分の意見を表明する場です。視覚障害があっても、日々感じること、変わってほしいこと、守ってほしいことは一人ひとり違います。その声を政治や社会へ届ける方法の一つが、投票です。
よーすけは、期日前投票なども活用しながら、一人でも多くの視覚障害のある人が投票し、それぞれの声が世の中に反映されたら嬉しいと考えています。点字投票を円滑に利用できるよう支えてくださる自治体職員の皆さんにも、感謝を伝えたいと思います。
次の選挙が近づいたら、候補者の情報を受け取る方法、投票する日、使いたい支援を確認してみてください。みえても、みえなくても、自分で選んだ一票を届けられるように。今ある方法を使いながら、もっと参加しやすい仕組みも一緒に考えていきたいですね。
資料確認:2026年9月14日。本文中に各国の選挙機関・政府資料へのリンクを記載しました。海外制度の対象・選挙種別・実施時期は本文の範囲で紹介しています。新規アイキャッチはAI生成イラスト、ドイツの写真は2017年の実物資料、本文の図解は説明用に整理したものです。

